読書

ドールの庭 (ハリネズミの本箱)
「ドールの庭」
作者: パウル・ビーヘル, 野坂悦子
出版社/メーカー: 早川書房
発売日: 2005/04/14
メディア: 単行本


やっと今日、読み終えました。
タイトルがまるで、○インを思い出す本書ですが、もちろん内容は全く違います。
雰囲気からいえば、いつかどこかで読んだような古きよき童話の匂い・・・でしょうか。

出だしは、ある女の子が小人の葦の渡し舟によって、ある町に入る場面からはじまっています。
多少、唐突にも見える始まりから、読者はだんだん物語のなかに引き込まれていきます。
失われた都、ドールの町の奥深くに隠された、ドールの庭まで・・・

女の子は首に銀の鎖のペンダントをかけています。そのなかにある秘密があったのでした。
そしてそんな女の子コビトノアイ/ノモノを追いかけるようにやってきたのは吟遊詩人のヤリックでした。
町の奥深く入り込むコビトノアイと、それを追いかけるヤリック・・・その歩みとともに、物語がひとつまたひとつ、語られ、しだいに女の子の過去がわかるようになっていくしくみになっています。

挿入された物語のひとつひとつに魅力があって、ひとつの昔話のようにも思えて、面白かった。
そしてそれが全部つながってはじめて見えてくるものも。

女の子ノモノと庭師の男の子ノジャナイ。
そして吟遊詩人・・・道化のヤリック。
王さまをたぶらかして、王妃を追いやり、城に入り込んだ魔女シルディス。

これらの人物が織り出す物語は、古き香りのする気品あるおとぎ話の世界です。
作者はオランダの人で、あちらでは『十冊のオランダ児童古典』に取上げられたことがあるほど、世代をこえ読み継がれてきたもののようです。
子どもの頃からグリム童話に夢中で、ひとりで夜ベッドに入ることがこわくて、学校嫌いで自然のなかで遊ぶのが大好きだったいう・・・
祖父はグリムのふるさとドイツの出身だというし、生まれながらにそういう素質をもっていたのかもしれませんね。

そして訳者のかたも、ただたんに訳したのではなくて、原語の言葉遊びのおもしろさを生かした訳をめざしたそうです。
詩人の歌う歌のなかに出てくる言葉など、ですが。
「ウンコムシ」とか「オシッコムシ」とか。原語では、これは「ダンゴムシ」と「ゴキブリ」だったそうで。
感じが全然違います。
原語のおもしろさが伝わってくるようでした。

魔女の変な話し言葉、バケンチョだのシワンチョだの・・・そういう遊び言葉もおもしろく、きっと子どもたちがこれを読んでも楽しめるんじゃないかな、と思えました。

また花の種が大地に根ざし、しだいにぐんぐんのびていく、その描写のしかたが新鮮な感じで、植物の成長ってこういう感じなのかも、と思わせてくれました。

種から根がでて、そして今度は上に茎がのびていって、ついに地面を割って、顔をだし、太陽の光をいっぱいにあびて、ぐんぐんとのびていく。
光と雨と栄養を飲み込み、ただひたすら立ちつづける。どんなものがやってきても、身動きもできず大地に立ち尽くしたまま。やがて十分にのびきり、そのときがくる。頭が張り裂け、はじめて日の光を目の当たりにすることになるのだ。そうしてそれからあとは、大きく開いた目で太陽を見つめるだけ。

そういうことを・・・。

最後に。ドールという言葉にも意味があるそうです。
オランダ語のしおれる・枯れるという意味の動詞に、乾いた・荒れはてたという意味の形容詞から作られた造語だそうです。
それを考えてみると、その都に隠された庭に・・・ということの意味がもっと大きく思えてくるのです。