少女の冒険小説「海賊ジョリーの冒険」

海賊ジョリーの冒険〈1〉死霊の売人

海賊ジョリーの冒険〈1〉死霊の売人

「鏡のなかの迷宮」三部作を書いたカイ・マイヤーさんの新刊ということで、手にとりました。
これも三部作で、ドイツでは、「鏡のなかの〜」以上のベストセラーになっているそうです。


タイトルから、もっと子ども向けの冒険談を想像してしまっていた私でしたが、ちょっと違いました。
やはり、あのカイ・マイヤーさんの作品らしく、ちょっと普通考えないような、一風変わったファンタジーでした。


まず、ミズスマシという、水の上を歩いたり走ったりできる少女、という設定がすごい!
これには意表をつかされました。大真面目で、そんな能力を考え付いてしまうなんて!です。
この子の足はいったいどうなっているんだろう?と疑問でしたが。ミズスマシというからには、普通の足とは違ったふうになってるのかな?なんてね。
その点については何も説明はありませんでしたが、ただひとつ。海から離れていると、だんだん苦しくなってきて陸では長時間過ごすことができない、という少女自身の言葉があっただけでした。


まあこの点には目をつぶるとして。

この子は海賊なんです。カリブの海賊・・・キャプテン・バノンという船長のもとで庇護されて、その船のために働いていたようですが。
あるとき、その船長が罠にはめられて。海戦になってそのあげく、少女ジョリーだけが孤島に漂着してその島に住んでいた少年ムンクに助けられるのです。
そのムンクにも少女と同じ能力があり・・・さらに貝を使っての魔法の力まであるらしい・・・!?


その少年が親しくつきあっていた、「死霊の売人」というのが本書の鍵をにぎる人物となっております。
この人物が言うには、この世界の隣には〈暗黒の海〉(マーレ・テネブロズム)という世界があり、普通は二つの世界の境界を渡ることはできないが、ここに裂け目が生じることがある。よくある海で起こった大惨事はこれのためで、裂け目にはまって流れていってしまった船や生物はそこから戻ってくることはできなくなってしまう。
が、その世界には例えばアケルスというような、怪物がおり、その生きものがこちらの世界にまで渡ってこようとしている。
そうして、こちらの世界への扉を作ったのだが、それが〈大渦潮〉(マールシュトローム)という。

ジョリーとムンクのふたりは、このマールシュトロームというものに巻き込まれ、それ以後は否応なく事件の謎を追っていくことになるのでしたが。


いま私も説明を書いていて、いまいち「?」と思うことも多かったのですが。
この世界と隣り合った別の世界がある、いうことで既存のファンタジーを思い出したりもしました。
上橋さんの守り人シリーズとか、D・W・ジョーンズのFT小説とかね。


1巻が終わった時点でも、これから話がどう転んでいくのか全くわかりません。
主人公たちは一応、エレニウムという海のなかに浮ぶ都市にう向かったんですが、途中でジョリーはとりこぼれてしまうし。
もうひとりの少年(ジョリーの海賊仲間)グリフィンも気になります。


前作「鏡のなかの迷宮」でもそうでしたが、児童書なのにこの作家さんの書くものは予想を凌駕した内容で、驚かされます。
またいろいろグロテスクな怪物が登場してきて、これにも度肝をぬかれます。
アケルスという、異世界からやってきた怪物なんかは、その最たるもの。まぜこぜの、どろどろした雑多な汚いゴミや何かを寄せ集めたような存在で、宮崎アニメを連想してしまいました。「千と千尋」のくされ神とか… 何せ「世界の宮崎」ですから、影響があってもおかしくない?


ほか突飛な登場人物があとひとり。頭が○○なんです! 普通はなぜ?って感じになるのでしょうけど、私はグインなどで免疫があるもので。そういうものか、って感じでしたけど。


海洋冒険譚としても楽しめました。子どもの頃に読んだら、おそらく夢中になって読んだだろうな、というような。
登場キャラもそれぞれ立ってるし、読み応えもあります。
私は元大海賊スカラベの娘という設定の、プリンセス・ソールダットがけっこう気に入りました。
女ながら、かっこよいですよ。胸がすきます。


わりと楽しめたので、2巻がでたらまた図書館で借りて読もうと思います。