「ヒストリアン1・2」

ヒストリアン・I

ヒストリアン・I

ヒストリアン・II

ヒストリアン・II

1・2巻あわせて1000ページ近く、章にすると全部で79章(+エピローグ)という大作でした。
ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』を超える、歴史グランドミステリーツアー、とかいうのが売りだったようにも思えますが。ハリウッドで映画化もされるようで…いま書店にいくと平台に積まれているのに出会えるかと思います。

私は図書館で借りたのですが、これが異常に読むのに時間がかかりました。上巻である1巻だけで一週間近くかかっています。とにかく本のページを開いて読もうとするたびに異様に眠くなってしまって。数行読んでは眠りの世界に誘われ・・・とまるで催眠状態にかかったかのごときありさま。これは読了できるかな、と本気で心配しました。

何でかな、と思ったのですが、やっぱり最初の、主人公と父親の旅の部分の描写…それがどうにも退屈で。外交官である父の仕事に娘がいっしょについていくんですが、ヨーロッパの各地の描写はまるで旅行案内のようで、どうにも興味を持続させることが難しかったんです。
冒頭で、ヒロインの少女があるふしぎな竜の絵の描かれた本を見つけ、それがきっかけになって父親が自分の大学院時代の過去話などをぽつぽつと語りだしていくのですが、これがまたイライラが高じてしまう。

この父親、思わせぶりな感じで、ちょっと話してはすぐに話をやめてしまい、それも自宅では絶対に話そうとしないもんだから、前述のように旅行に連れ出してもらった時にやっと聞く、という感じ。
それがどうしてだったのか、については後々わかるようになりますが、そこまで読んでいくのがちょっと大変でした。

構成も複雑になっています。主人公の私が16歳の少女だった頃(1970年代)、その父親が20代後半の大学院生だった頃(1950年代)、父親の指導教官ロッシ教授の若い頃(1930年代)、そうしてこの本を書いているという設定になっている私の現在の時、と4つの時間が交差しながら、複雑に話が進んでいくのです。

1巻の主軸は、謎の失踪を遂げた指導教官ロッシ教授の行方、父娘に迫る謎の黒い影、彼らをつなぐ竜の本の謎、といったところですが。
本の謎とロッシ教授の行方を追って、若きポールがアメリカからヨーロッパ、トルコ、ハンガリーブルガリア、と舞台を変え、探索行をつづけていく(50年代)、その過程でだんだん話にひき込まれていくようになりました。そのせいか?2巻はずっと早く読めました。

娘の時代(70年代)でも、第一部の後半でやっと自分で動き出したときに興味がでてきました。突然、行方をくらませた父親のあとを追って家をひとり出ていく彼女に、付き従う大学生のバーレイ。若い2人の探索行、どうなってしまうのか?と思ったら、途中でその時間の流れがいったん途絶え、話は突然、父親のポールと同じ学者仲間のヘレンとの探索行にすりかわり・・・
16歳の私が、自分宛の父親の長い手紙によってその冒険の内容を知っていく、という設定になっています。おまけにその途中で、失踪したロッシ教授叙述の手紙になったり、ヘレンの母親の思い出話になったり、とこれ以上ないほど複雑・・・

それでも読んでいくことができたのは、ひとえに、例の人物(バレバレだろうけど一応、伏せておきます)にかかわる伝説や、歴史上の功績、悪行、各地の修道院や図書館に眠っている古文書から真の墓を探していく醍醐味・・・などなどゆえでしょう。
馴染みのない東欧世界(イスタンブール、ブタペスト、ワラキア、トランシルヴァニア等)の魅惑に満ちた描写によるものでもあります。もちろん私は行ったこともない世界ですから、これが現実のものと同じかどうかについてはわかりかねますが。

静謐にみちた修道院、修道士の詠唱につつまれた礼拝堂などなど、イメージ的に惹かれるものがありました。とくに印象的だった地は、ブルガリアのリラ修道院、バチコヴォ修道院、そしてピレネー山脈近くの、ピレネー・ゾリアンタルにあったあの修道院…でした。観光地とはまた違った魅力があるような気がします。行ってみたいと思わせられます。

かの人物に関しても…。伝説と実際の歴史上の人物とはやはり違う存在なのだと思うけれど、フィクションとしては楽しめました。歴史ミステリーとは色あいの違うものとして、です。幻想小説ともちょっと違うかな。吸血鬼ものとしても物足りない部分はあったかもしれません。結局、愛の物語だったというただそれに尽きるのかも。

それでも楽しめたのは、どうしてなのか? 現実の歴史+伝説+作者の想像力、それらがいい具合にミックスされていた、ということになるのかな。冒頭の「読者へ」の部分にも、想像力については慎重に取り扱ったとありますから、よくよく考えて練られた物語だったんでしょう。

ただひとつ、物足りなかったなと思えた部分… 16歳の私が父を追って、大学生のバーレイと旅する部分があって、それが途中でなくなってしまい(章によってはちらりとあったけど)、それがラストになって突然、出てきて何だかわからないうちに一気に解決、というかたちになったことです。その私の時代の物語の部分が薄かったように思いました。解決のしかたもなんかあっけないほどでしたし。やはり、ポールとヘレンの、古文書から古文書へという学術的探索行の部分があまりに長大になったゆえなのでしょうか。それはそれで面白かったけど。

かの人物の扱いに関しても、あいまいな部分が残ってしまいました。あの秘密の図書館は、いったいどこへ移されたの?とか、そもそも彼が死なざる者になった発端は何だったの?とか、西方ガリアの地での秘術とか何とか???と疑問が置き去りにされてしまったという感じです。

それに何と言っても、最後に現在の私に起こった衝撃的な事件。あれはいったい何を示唆しているのでしょうか。まるでまだまだ話が続いていくような・・・ まだまだ私は何者かに見張られているのでしょうか、もしかして永遠に?
とか思って、最後の最後まで気を抜けませんでした。もう本は返さないといけませんが、出来たらもう一回、最初から読み直してみたいですね。初読の時よりも、どういう話かわかっているでしょうから。

映画化についても楽しみにしています。よりわかりやすく、描いてくれることを期待しています。