「ギフト 西のはての年代記Ⅰ」ル=グウィン


ギフト (西のはての年代記 (1))

ギフト (西のはての年代記 (1))

ル=グウィンの新作、やっと読みました。
38年ぶりに発表されたという新作でしたが、70歳過ぎて新しい物語を生み出す力、すごいですね。
作家ル=グウィンの底力を感じました。


本の見開きページにこの「西のはて」の地図が載っているのですが、それ見てるだけでいろいろな話があるようで、わくわくしてきます。
新しい世界を創造する、というとやたら派手なファンタジーを連想してしまいがちですが、やっぱりル=グウィンは違いました。
ちょっと見には地味だけれど、しっかりとした物語が描かれています。


何より、面白いと思ったのは、この作品のタイトルにある「ギフト」という言葉の意味。
本来なら贈り物という意味ですが、この世界ではちょっと違いました。


ある土地に住む民に備わった能力のことを指すのですが、それは全く同じものではなくて、あちこちの家によって使える力が違うのです。
動物に呼びかける力、指でさしたところに火をつける力、目に見えないナイフでもって人を傷つける力、、他人の考えていることがわかってしまう力、人の意志を奪い、あやつる力・・・などなど、ちょっと怖い力もあります。


主人公の少年オレックの一族に伝わる力は、<もどし>の力。
人でも動物でも物でも何でも、とにかく元ある状態にもどしてしまう力。その力を動物や人間に使ってしまうと、恐ろしい結果になってしまいます。
オレックはこの力をなかなか目覚めさせることができなくて苦労するのですが、いろいろあって結局、彼にはとても強い力があるのだということが判明してしまいます。
それによって、オレックは父に目を封じられ、暗闇のなかで過ごすことを選択せざるを得なくなってしまうのですけど。


結末に向け、だんだん真相が明らかになっていくのですが、
そうだったのか!という感じです。オレックの力・・・ 
暗闇のなかで目覚めた真の力。
それこそ素晴らしい力だったといえるでしょう。


ギフトの意味… 何かを得るためには、何かを犠牲に差し出さねばならない、という…
オレックが差し出した犠牲も尊い犠牲でした。
逆にそれを犠牲にしなければ、オレックが望んでいた力を得ることはできなかったでしょう。
だから、それは必要な犠牲だったのかもしれない。
何かを得るためには、そのために必要なものを差し出さなければならない、ギフトの真の意味…
それは、今の私たちにも必要な概念なのかもしれません。

続編もとても楽しみにしています。