「最後の記憶」綾辻行人

最後の記憶 (角川文庫)

最後の記憶 (角川文庫)

この作家の本を読むのは、実は初めてだったりする私です。でも十分、楽しめました。
死の直前に浮かぶ、恐るべき「最後の記憶」とは!?

いったいなんだろうと思いながら、読みました。


脳の病を患い、ほとんどすべての記憶を失いつつある母・千鶴。彼女の心に残されたのは、幼い頃に経験したという「凄まじい恐怖の記憶」だけだった。突然の白い閃光、ショウリョウバッタの飛ぶ音、そして大勢の子供たちの悲鳴――。
死を目前にした母を今なお苦しめる「最後の記憶」の正体とは何なのか? 波多野森吾は、母の記憶の謎を探り始める……


ジャンルとしては、幻想ホラーになるのかもしれないけれど。ジャンルをこえた、面白さがあったと思います。
何より、人間の脳の不思議さ、年をとっていくにつれ、付随してくるあれこれ、いろいろ考えると、頭のなかがぐるぐるしそう〜!
まさに、心の迷宮でしょうか。


主人公の、母の病が自分にも遺伝するのではないだろうか、今はまだ何ともなくてもある日突然、症状が起こり、自分も母と同じようにだんだん記憶が欠けてくるのではないだろうか、という恐怖はリアルにせまっていて、自分もいろいろ考えさせられました。
そう思いつつも、自分の行き先ばかり心配に思ってしまって、死にいく母のことを思ってやれない、自分は酷い息子だという自責の念は、読んでいてせつないものがありました。身につまされれますね。


最後の真相にいたる過程で、ちょっとショッキングな場面があり、自分としてはそこの部分は共感できませんでした。そうすることが、いかに必要なことだったとしても、心情的に受け入れられないということです。
当人も辛くないわけはないだろうけれど、感情が麻痺してしまっていたのか? 淡々とこなしているようで、何だか嫌でした。
いくらある人を助けるためとはいえね。それもつもりつもっていえば、自分に帰ってくることだったのだし・・・
主人公はちょっと性格的に、ウダウダしてる感じで印象が悪かったのですが、ここの部分でもちょっと私は反感持ってしまいました。

ショウリョウバッタの飛ぶ音、キチキチキチ。ぱっとひらめく白い閃光。この二つが鍵になっている。

あとになってみれば、なるほどなあと思いました。しかし、私にはこの擬音はキチキチというよりも、チャキチャキという感じに聞こえるのですが。試しに自分でも音を出してみたけれど、どうも違う音に聞こえてしまいますね。
以上、細かいところですが、ちょっと突っ込んでみました。


それと、文庫版の解説にあった、昔話がどうのというの。私も全く気付かず、連続殺人の犯人の名前やら、いなくなった塾の生徒の名前やらを見直してみてやっとわかりました。

なるほど!! だから、最後にカメのことを心配していたのね。何か関係ないことなのに???って思ってました。