「魔法の庭」イタロ・カルヴィーノ

魔法の庭 (ちくま文庫)

魔法の庭 (ちくま文庫)


イタロ・カルヴィーノの名前はずっと昔から知っていたにもかかわらず、いつもスルーしてばかりで、今回はじめて読みました。短編ばかりなので、読みやすいかな、と思ったのですが。
正直おもしろさがよくわからないものもありました。

例えば表題作の「魔法の庭」。

海で遊んでいた兄と妹が水着のまま、海辺の線路づたいに歩いていって、たどりついたお屋敷の庭。こっそりと庭に忍び込んだ二人はどきどきしながら、プールに入ってみたり、卓球をしたり、しまいにはテーブルに用意してあったお茶を飲んだり、お菓子を食べたりするのですが。心は全く落ち着きません。いつ誰かが怒鳴り込んできて、追い出されるかもしれないと。

最後に見かけた、屋敷の少年。でも裕福そうな少年は自分たちと同じような不安をかかえているように見えたのです。魔法のようなあの庭も、本当は彼のものではないのに、間違いであたえられてしまったものなのだという、強い不安感。

この兄妹は、どうしてこういう感情を抱いたんでしょうね。それについては特に何も触れていないのです。ただ自分たちの不安感によって、そう感じてしまっただけなのかもしれない。
なんということもなく、単調に描かれた一編でした。


他の短編も同じような印象を受けましたが、そこには共通してある感情、というか強い不安感のようなものですが。それを感じました。
おそらく、反ファシズムパルチザンに身を投じた作者カルヴィーノの経験によるものでしょうが。


「不実の村」「小道の恐怖」「動物たちの森」などにとくに強く現れていると思います。


私がおもしろいと思ったのは、「動物たちの森」「だれも知らなかった」「菓子泥棒」などでした。

その中で「菓子泥棒」についてだけ書きますが・・・

泥棒に入った先はケーキ屋だった。お菓子なんて戦争以来口にしたこともなかった泥棒たちはもうあとさき考えずに、手当たり次第に食べまくります。時間すら、自分たちが何のために入ったのかすら忘れ果てて。その結果は当然ながら・・・のものだったのですが、ここで可笑しいのは、泥棒たちを捕まえに入った警官たちですら・・・だったこと!
つい、くすりと笑ってしまわずにいられませんでした。

読み始めた最初は、ちょっと退屈だなぁなんて考えてしまった私でしたが、いつの間にか話に惹きこまれ、おしまいのページまで読み終わっていました。