吟遊詩人の伝承


吟遊詩人トーマス (ハヤカワ文庫FT)

吟遊詩人トーマス (ハヤカワ文庫FT)


この作品も世界幻想文学大賞受賞作品です。→世界幻想文学大賞について
それだけのものはありました。これぞ幻想文学?って言いたくなるくらい、幻想的な。
この大賞受賞の傾向と対策があったとしたら、そのラインにぴたりハマっていたでしょう。


私がこの本を読んだ発端は、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「九年目の魔法」というファンタジー作品でした。
その本のなかに、タム・リンの妖精譚という話がでてきたのです。
ただ話がでた、というだけじゃなく重要な筋に絡んで…
それでこの伝承を知り、関連作品を読んでみたいと思った私でした。


日頃の怠慢が高じ、なかなか実現せず、先ごろやっと読みました。それが以前に紹介した
「妖精の騎士タム・リン」と、「幽霊の恋人たち−サマーズエンド」中に収録されていた小品「タム・リン」というお話です。


それぞれ満足した私。さらに関連作品をば・・・と。

この「吟遊詩人トーマス」を読んだのですが。

読んでしばらくしてなんかちょっと違わない?と自問。

確かに筋の一部が違っていました。これは全然べつものなの?
名前も違う。タム・リンとトーマス。同じ名前を違う言い方でいったんだ、と思ったんですが。


筋の一部… それは、タム・リンが妖精の女王に妖精の国に連れ去られ、七年間の奉仕ののちに、地獄のつとめが待っているとかということで。乙女ジャネットに、真夜中助け出されるというもの。

それがこの「トーマス」では。七年間の奉仕というのは同じですが、どっちかっていうと、その奉仕自体が自ら望んでのものだったような。女王のキスによって、魔法にかけられたんだといってましたが。
そして七年たつと、女王は最初の言葉どおりにトーマスを人界にもどしてくれるんですね。
そこんとこが何か違うなあ、って。

ひょっとしてもともとの伝承が違うものだったんだろうか。
トーマスというのは13世紀に実在した人物だったみたい。14世紀ごろ流布したロマンスを、19世紀になって採取したものなんだそうです。(詳しくは井辻朱美さんの訳者あとがきで)


ジャネットとタム・リンのその話は、歌として登場してましたから。別物だったのかもしれない。
よくわからないんですが。

四部構成。最初は農夫ゲイヴィン視点でトーマスというなぞめいた人物について語られます。次の章でトーマス自身の視点から妖精の女王と出会い、エルフランドにいって帰るまでに出来事が語られ、その次なる章にてふたたび人界の地に立ったトーマスのその後が、最後の章でトーマスの愛する女性エルスペスの視点でその後のトーマスと彼女自身の物語が語られるという、ちょっと凝った構成になっていました。

それぞれの章がおもしろかったけれど、トーマスの章で語られた挿話、鳩になった騎士の物語と、待ち続ける王という存在の関連がちょっとわかりにくかったです。
結局、最後になってもあの王とかいう人物はなんだったの?って疑問がのこります。
妖精の国らしく?幻想的なあまりよくわからないこと続出でした。
私は途中で眠くなってしまったくらいでした。


そこのところの不満は残りましたが、全体的には満足いけるものだったと思います。
まだこの作者の作品があるので、いつか読んでみたいです。