たんなるSFじゃない「太陽の黄金の林檎」


レイ・ブラッドベリ初期の短篇集。ずいぶん長く読んでいましたが、やっと終わりました。
理由は本の内容には全く関係なく、たんに自分の都合でしたが。それにしても、長かったなあ。


内容はすばらしいのひとことに尽きます。
なかには?と思うような作品もないわけじゃなかったけど。
初期からこの完成度、やっぱブラッドベリはすごいや、と思ってしまいました。


よかったのはいろいろあるけど、やっぱり永遠の少年系?でしょうか。
「霧笛」(は、ちょっと違うか。ホラー要素あり?)
これが噂に聞いた(「少年時代」で)「霧笛」だったのですね。よかったです。なんとも言いようのない郷愁と悲哀に充ちています。萩尾望都さんの漫画版もみましたが。
いい作品は漫画化もしやすい、のかな。


あとは面白かったもの、順不同に・・・


「鉢の底の果物」泥棒に入った家で、ふと自分のつけた指紋が気になってそこらじゅうを掃除してまわる男の話。
皮肉な結末。おもしろかった。


「目に見える少年」にでてきたおばあさん、寂しかったんでしょうね。その後どうしたんでしょう。少年はいつの時代も自由で、背中に翼をもっていて・・・すぐに自分のそばから跳び立ってしまう。そんなおばあさんの気持ちわかるような気がしました。


「人殺し」はタイトルの意味がちょっと違ってます。殺すのは人じゃなくって、物なのです。
私もよく鳴って欲しくないときに鳴る電話、うるさくてたまらないテレビ等に理不尽な怒りを感じることが少なくないですから。わかります。


「黒白対抗戦」は、黒人対白人のベースボールの試合のようすを描いたもの。白人とちがっていかに黒人が強くてたくましくて、陽気でつきあいやすい人種なのか、ということがわかります。私たち日本人にはよくわからないところがあるけれど、どうしようもないことってあったわけですね。
ビック・ポウの最後にやってのけたこと、それだけに爽快でした。ちなみにここにも、ダグラス少年がいます。


「雷のような音」東京創元社のメルマガで知ったのですが、この作品が来年映画化されるそうです。
内容はタイムトラベル&恐竜物ですが、映画にするならこれじゃ話が全然短すぎます。原作の味をいかし、さらに膨らませたものになるといいですね。
タイムパラドックスみたいな展開になりそうな気がする。なって欲しい・・・!?(希望的観測)


発電所」巻末の解説によると、O・ヘンリー賞をとったそうですが、正直いって私にはちょっとピンとこなかったです。最高傑作というレビューを見て期待が高まって、どんな話なのだろう?と思いつつ読みましたが。
どうも私には格調高すぎたような気が。文学的なのかもしれないけれど理解が及ばなかったです。残念。


「日と影」はなんかよかったです。私もなんですが、旅行などで観光地にいくと、なんでもかんでも写真を撮りたがるということ。現地のひとにとってみれば・・・いやな気分になることがあるのかもしれません。
とくに自分の日常からかけはなれたような場所(たとえば海外の古都とか)にいくと、もう舞い上がってしまって。
たんなる壁のひびわれにも、くずれた石のかけらにも感動しなんでもかんでもパシャパシャやってしまう。
この話にでてくる男の言葉、この町は住む人は、背景なんかじゃない、写真でも小道具でもない、役者なんだ、という言葉・・・胸をうちますね。


「歓迎と別離」は、十二歳のまま歳をとることもなく、ただ時間だけがすぎさっていく男の話。病気なのかどうかはわかりませんが。ずっと永遠の少年でいつづけるということ。
本人にとってはどうなのでしょうか。ひとつの町に長くいられなくて、点々とする日々。彼に真に休息の日は訪れるのでしょうか。ちょっと胸が痛みます。


そして最後に「太陽の黄金の林檎」。
はあ、こういう話だったのですか。とても短い作品ですが、ブラッドベリらしさが濃厚でした。
「南」へつきすすむ宇宙船、そして任務をおえ、ふたたび「北」に進路をとり、もどっていく宇宙船。冷たい宇宙の深遠のなかを・・・これもたんなるSFにとどまらぬ、文学の香りがします。