夢のなかで幸福を・・・?「赤い鳥の国へ」


赤い鳥の国へ

赤い鳥の国へ

作者: アストリッド・リンドグレーン, マリット・テルンクヴィスト, 石井登志子
出版社/メーカー: 徳間書店
発売日: 2005/11/19
メディア: 単行本


これはどっちかっていうと絵本に近い、児童書ですね。
でも紙質もよくって光沢紙という感じで、絵がひきたちます。


お話は、みなしごになった幼い兄妹が、働き手としてお百姓さんの家にひきとられて・・・といったもの。
親を亡くしてかわいそうだから、というんじゃなく、たんなる働き手としてもらわれていったわけですから、毎日のように幼い兄妹はこきつかわれ、遊ぶ暇なんてありません。
食べるものも、ニシンの汁につけたジャガイモだけ。この食べ物がどういうものなのかイメージがわかないのですが、とても美味しいものとは思えない、ですよね。


この貧しい兄妹の日々は、色にたとえるなら灰色そのものでした。


でも兄妹にはひとつだけ、希望があったのです。
それは冬のあいだだけ開かれる学校にいけること。
きびしいお百姓さんもこれだけは断れない。なぜなら、学校にいかせないと牧師さんからいろいろ言われるから。


兄妹たちは、冬がくるのだけを楽しみに、春、夏、秋を過ごします。春になっても、夏になっても、秋になってもずっとつづく灰色の日々・・・
それが冬になれば、変わるはずだと信じて。


けれど冬がきて学校にいくようになっても、兄妹の灰色の日々はなくならなかった。貧しい兄妹は、ことあるごとにほかの生徒からからかわれ、差別される。


そんなある日・・・兄妹は真っ赤な鳥を見かけます。
その鳥を追いかけて、たどりついた場所。半分だけ開いた扉の向こうには奇跡のように、春の野原がひろがっていたのです。
それから兄妹は毎日、学校の帰りにこの春の国へ通うようになって・・・


悲惨な境遇だった兄妹に、初めて訪れた色鮮やかな日々でした。
物語は、そうして幸福な結末へと導かれるのでしたが・・・


その場所にしか幸福がなかった、ということが私はすこしだけ悲しかったです。
もちろん二人は幸せなんだろうけれども、はたしてあれでよかったのだろうか?と。

マッチ売りの少女のように、夢のなかで幸福を・・・みたいな感じがして、それがちょっと複雑でした。

夢のなかでだけ、心のなかでだけでも幸福になって欲しい、というリンドグレーンのやさしいまなざしは感じとることはできますが。


また美しい挿し絵によって、よりインパクトをもって読むことができました。
とくに、色の対比。
冬の、灰色や白、こげ茶色の場面と、春の若草色に燃え立つ色あい・・・コントラストがすばらしい!
見開き2ページの、最初と終わりの違いをみると、よくわかります。

同じリンドグレーンで、同じ画家さんの「夕あかりの国」という絵本を読んだことがありますが、美しい絵に心が洗われるようでした。