古くて新しい? 楽しい冒険譚「トロール・ミル」

トロール・ミル〈上〉不気味な警告    トロール・ミル〈下〉ふたたび地底王国へ

トロール・ミル〈上〉不気味な警告  トロール・ミル〈下〉ふたたび地底王国へ

作者: キャサリンラングリッシュ, Katherine Langrish, 金原瑞人, 杉田七重
出版社/メーカー: あかね書房
発売日: 2005/11
メディア: 単行本


北欧冒険ファンタジートロール・フェル」の続編です。
前作で、水車小屋に住んでいたバルドル、グリムの残忍な叔父たちがトロール山にある地下王国に、トロールとなって閉じ込められてから、三年。ペールは十五歳になっています。
ヒルデの農場にいっしょに住んで、家族の手伝いをしていました。


そんなとき、新たな事件が・・・。
以前、父親のラルフが航海にでかけて家を留守にしていた頃ヒルデたち家族をいろいろ助けてくれていた、海辺の漁師ビョルンとアーネ。
その片割れ、ビョルンの妻チェルスティンが、ある夕方突然、錯乱したようになって走ってきて、その場にいたペールの腕に自分の赤ん坊をおしつけ、そのまま走って海に飛び込んでいってしまうのです。
いったい何がチェルスティンにあったのか?わけがわからず、彼女を追って海に舟を漕ぎ出すビョルンをそのままに、ペールは赤ん坊をかかえて夜の闇のなか、はげしくなっていく風雨をついて、農場へ向かって突き進んでいくほかありませんでした。


その後、ペールは海辺の村の村人たちが話している噂を聞きます。チェルスティンはアザラシの女で、七年前ビョルンは彼女をむりやりさらってきたのだという・・・
そんな途方もない話、と即座には信じられないところだったのでしたが。


一方、ヒルデたちのヒツジが何者かによって盗まれるということも起こっています。ペールが赤ん坊をつれて家に帰ってきたあの日も、ヒルデと父ラルフたちは、山でトロールの群れを偶然、見かけていました。
そしてヒルデの足の下でつぶれた白い骨・・・
またペールがあの夜、水車小屋のそばを通ったときに見たもの。だれもいないはずの水車がごとりごとりと動いているようす。


いったい何が起こっているのか!?
その謎を追って、物語がはじまります。


ペールの、ヒルデに対するほのかな思いも初々しい。
ヒルデはビョルンの弟アーネを好いているのではないのか?などとやきもきする少年の心、ちょっとくすぐったい。


そしてアザラシの女だったというチェルスティン。
彼女に思いをよせるビョルンも。痛々しい・・・
のこされた赤ん坊、ラーンの存在。アザラシの赤ん坊だ、などと村人たちに悪口をいわれるまでになっていましたが。
泣きもせず笑いもしないで、大きな黒い眼でただじっと虚空をながめているような赤ん坊でした。
それがラスト近くのあの場面で変貌する・・・感動的でした。


ペールとヒルデたち家族にも新しい赤ん坊が生まれていました。ラルフとグードルンの子エイリク。亡くなったおじいさんの名まえからつけられた子どもです。
ラーンとは打って変わって、赤ん坊の典型みたいなやんちゃな子ども。


それともうひとり(?)。ドブレ山にお嫁にいったトロール山のお姫さまが産んだ初めての子。トロールの王子です。
物語の後半部分で登場しますが、これが一風変わった赤ん坊で。何か憎めないキャラです。


憎めないといえば・・・ 前回も登場したラバーというふしぎな生きもの。前は水車小屋の便所に住んでいました。
それがあれやこれやあって、水車小屋を追い出され、とある計略に使われるようになるのでしたが。
わんぱくエイリクぼうやに、“ちゃん”と呼ばれて、思わずじーんときちゃうところとか、いつか人間になってあったかい毛布やベッドや居心地のいい場所に住みたいんだ、なんて願ってたところとか。なんか印象にのこってます。


なんというか、素直に物語を楽しめたような感じがしました。前作同様・・・
この作者はほんとにお話をつくるのがうまい、ですね。訳者の金原瑞人さんもあとがきで書いていますが、本当にそう思います。


この話はこれでおしまいなのかな? もうちょっと続きを読んでみたいです。


アザラシが人間の女になる話、というのも以前、別の本で読んだことがありました。
ベースとなっている北欧の伝説にもそういうのがあるのでしょう。
古くからある北欧伝説に裏打ちされた、新しい現代の物語という気がします。
身近にトロールだのアザラシ人間だの、謎の船だの(そういえば、あの謎についてははっきりと書かれていませんでしたが…)、不思議なことがいっぱいのお話。
子どもはもちろん、大人でも楽しめる冒険譚でした。