秘密のともだち・・・「わたしたちの帽子」


わたしたちの帽子

わたしたちの帽子


大好きな高楼方子さんの新作!ということで、期待して読みました。


家の新築のために、春休みから一ヶ月だけ引っ越してきたサキたち家族が仮住まいした、ある古めかしいビルで起こったちょっと不思議な物語。


サキは借りた部屋にあった古い箪笥のなかから、花模様やいろんな模様の布で作ってある帽子を見つけます。
その帽子をかぶってビルの探検にでたサキが出会ったのは、緑色のまるいスカートに、セーラー服のブラウスを着たふしぎな少女育ちゃん。


ひとめで育ちゃんが好きになって友達になりたいと思ったサキ。その願いかなって、2人はすぐに仲良くなってビルのあちこちを歩いてまわります。
五階のつきあたりにあった額縁つきの絵を、扉のようにしてひらいたところに明るい光に照らされたらせん階段があったり、屋上の花畑で遊んでいた二人の前にあらわれた奇妙なダンスをするおじさんを、育ちゃんはモグラおじさんと呼んでいたり、また地下に遊びにいったときにこっそりバルコニーにでて、のぞき見た一室のなかで、行われていた劇。
劇なのに、まるでほんとのことのように見える雰囲気があったり。


なんか一言ではいえないけど、不思議な雰囲気がただよっています。
それは場所にもよるのかもしれない。
古びたビル・・・柵つきの箱型のエレベーターがあったり、アンティークな家具がおいてあったり、ふつうの雑居ビルとはまるで違う、独特の雰囲気があります。


その舞台でくりひろげられる、サキと育ちゃんのちょっとした探検。
ありふれた日常のなかから、あるときふっと現実味の薄い別世界に飛び出していったみたいな、そんな感じがあります。


以前に読んだ「時計坂の家」をちょっと思い出しました。
額縁の絵が扉になっている、なんてのを読むととくに思います。
また地下で劇の練習をしていた人たちの部屋の向いのビルの壁に美しい庭の絵が描かれていたことなど。またその劇の練習が、うそっこではなくて、本物のような感じがしたこと。


ちょっと足を踏み込めば、(扉をあければ)そこは別世界にいるのだ、という、私好みの匂いのする物語でした。

ここで描かれた謎は、最後にみごとに解き明かされるのですが、それを読んじゃうとなーんだ!って思っちゃいそうでした。
それまでの謎な雰囲気が好きだったので。
でもまあ、過去からとぎれなくつづいている、時の流れ…のようなものが感じられて、そこのところはよかったです。


花柄模様のおそろいの帽子をかぶったサキと育ちゃん。古びたビルで遊ぶ、秘密のともだち・・・
それは、だれの心のなかにもある(あって欲しいと願う)究極の友達像なのかもしれませんね。あんな友達と遊びたかったって。