「錬金術」

錬金術

錬金術


マーガレット・マーヒー・・・。絵本の分野では多少、出会いがあり、自分でも持っていたりしますが、実は小説を読むのは、初めてだったりします。

以前からマーヒーの小説は面白い!と聞いていましたが、それをいまやっと実感することができました。
すごい大作というのではないですが、うんこれはよかったです。

錬金術と聞くと、鉛を黄金に変えたり、不老不死の霊薬を作るとか何とかあやしげな物事を連想することが多いでしょう。
けれど、実際はそうじゃなくって、もっと広い意味での、医学や化学、天文学など、現代の科学のもとになった中世の研究のことをいうそうです。
昔の人がそういう場面(薬で怪我や病気が治ったりする…)を見たら、魔法を使っているとしか見えなくてもしょうがなかったのかもしれません。

マーヒーの小説では、その人に備わったある力のことを魔法ではなくて、錬金術という言葉を使ってあらわしています。
力というのは本来、純粋なもので、いい方にも悪い方にも使える。使う者により注意がいるということでしょう。

主人公ローランドは十七歳の優等生。けれどある日、彼は万引きをしていまい、それを高校の教師に見られていたらしくそれをもとに脅迫されることになります。
教師は校長に黙っている代わりに、ローランドのクラスの目立たない女生徒ジェスの身辺をさぐるように言いつけるのです。
脅迫されてしかたなく、ジェスに近づいていくローランド。でも、ジェスの家は何だか変!異様な雰囲気が付きまとっていました。それは何なのか?答えをもとめて、ローランドはいつの間にか深入りしていく。まるで誰かに導かれるように…。

ローランドとジェス。ふたりの身にいったい何が起こっているのか?息詰まる展開に、最後まで気をおかずに読了しました。
とくに途中のあるシーンでは、身震いがするほどぞくぞくっとしてしまいました。
ジェスの家もまた不思議なことがいっぱいで、いつも弟たちが騒がしいローランドの家とは対象的でした…。それがとても不思議な感じ。まるで家そのものが息を潜めてじっと窺っているような、そんな奇妙で、ちょっと怖い感じ。


でも一方で、ローランドの家のような暖かい家庭もあるわけで。マーヒーは両方をうまく描いています。
ローランドの家にも問題がないわけじゃない。それどころか父親は末の弟がまだ赤ん坊の頃に家を出て行方不明だし、その両親にも何か変わった秘密のようなものがあるらしい。
夫が家を出たあと泣いてばかりいた母親をかばって、ローランドは父親代わりをしようと立派に生きてきた。
弟たちをさりげなくフォローし、学校でも優等生としてリーダシップをとってきた。
一見、何の問題もなさそうな十七歳の男の子だったのですが。


彼に何があったのか?それは本書を読んでのお楽しみということで…
小説の主要なストーリーでは、魔法とか錬金術とかあやしげな物事が目立っているように見えますが、結局は家族の問題だったのではないか。そんなふうな気もしました。

とても気に入ったので、マーヒーの他の小説も、これからぜひ読んでいきたいです。