「トワイライト」

トワイライト (文春文庫)

トワイライト (文春文庫)

重松さん、もう何冊目か忘れましたが、続けて読みました。

小学校の卒業記念に埋めたタイムカプセルを開封するため26年ぶりに再会した同級生たち…。あの頃、思い描いていた未来と、いまの現実はあまりにもかけはなれていた。通っていた小学校は廃校になり、団地の入居者は激減し、町全体にも活気がなくなっている。それはかつて小学生だった同級生たちにもいえることで。それぞれの現実で、変わらざるを得なかった。

勉強はできたけど、スポーツが苦手。眼鏡をかけ、まるで「ドラえもん」の、のび太そっくりだった高橋克也。同じく、ジャイアンとあだ名で呼ばれたガキ大将だった安西徹夫。彼と結婚したのは、勉強ができてクラスでも目立つ存在だった(しずかちゃん)真理子。
級友と遊ぶよりも本を読んだり、勉強をすることのほうが重要に思えていた、ケチャこと竹内淳子
転校生で、たった一ヶ月だけ級友として過ごしただけで、また転校していった、スギこと杉本。彼がきっかけで、かつての6年3組の皆が集まることになった… 彼は肝臓を患い、入退院をくりかえすたびに病状が悪化、先の命も長くないだろうと悟っている。
唯一、変わっていないのは、いつもどこか人とは別のところをぼーっとながめているような性格の、大学病院で給食職員をやっている池田浩平。

それまでお互い会うこともなく、無関係だった彼らが、26年ぶりに再会し、タイムカプセルを開封することで、何かが変わっていってしまう。
当時の担任、白石先生はいまはもうおらず…… 集まった同窓生たちは意外な事実を知る。

この本は何かとっても痛々しかった。時の流れによって変わっていったものたち… 廃校になった小学校もそうだし、バブルの頃には隆盛していた街「たまがわ」の荒廃ぶりを読んでいるだけで、壮絶な変化がわかる。
住んでいた人間たちも同じ。将来の夢を語り、熱い思いで未来を想像していたかつての少年たちは、すでに中年にさしかかり、厳しい現実に翻弄されている。
40を一歩手前にした歳の、彼らの思いが私自身の思いに重なっていく。
ちょうど同じような歳であったせいだろうか、そのせいでより共感できたような気がする…

徹夫と真理子の夫婦関係は、何だかとってもむなしく感じてしまった。ふたりとも、いい父親、いい母親にはなれなかった。というより、いい悪いは関係なく、双方とも人の親として許せないものを感じてしまったのでした。
とくに真理子。彼女のような女性は、実際にいたら絶対に近づきたくない人間。そりゃつらいのはわかりますが、でもそのしわ寄せを食って、不幸になったのは子どもたちで…
身勝手に、自分のことばかりにかまけて、ふたりの子どもをかまいもしない真理子は全く持って許せない。
もちろん夫の徹夫の方にも欠けるところがあったのは事実なのですが、それでも後半、心情的には徹夫のほうが真理子よりは上だったかな。

予備校の講師で、最盛期には「古文のプリンセス」などと呼ばれていた、ケチャこと淳子にも悩みがあり…。予備校のことは全然知らなかったけど、こんなアイドル的に扱われるものか、とちょっと驚きました。テレビで講座をもつのはまぁいいとして、授業では予備校生からお菓子やお酒の差し入れがあった、だなんて…!
それだけにいまの変貌ぶりは…ということになるのですが。私はこの淳子さんにいちばん感情移入してましたね。

真理子やその子どもたちが勝手におしかけて、住んでたマンションを『ホテル・ケチャ』だなんていって、好き勝手してもいやな顔をするわけでもなく、本心は出て行ってほしいけどまぁしょうがないか、という感じで受け入れてしまっているあたり。
和食が好きで、朝食からちゃんと料理して、真理子が「正しいニッポンの朝食」だなんていうのもわかる。
迷惑に思いつつも、だんだん子どもたちに情がうつって、肩をもってあげたりするところも。いちばん真っ当な人間に見えたのでした。

子どもたち・・・中学3年生の千晶と小学4年生の愛美。子の子たちはきっとこれからも、たくましく生きていくでしょうね。最初、出てきたときはなーんて生意気な子!なんて思ってしまったけど、それは仮のすがただったんです。
本心は素直で、親の愛情に疎い、寄る辺ない子どもたちなわけで。それを突っ張って、嘘の笑いと虚勢で塗り固めて…つらいですね。

最後はどうなることかと思ってましたが、ああいうふうになってよかったです。ちょっとだけ安心しました。淳子の本を読んで、自分は〈清少納言〉になりたい、といった長女、千晶。彼女の願いは叶うのか?叶ってほしいような、ほしくないような。複雑な気分。明るいいい面だけしか見ずに、強くたくましく生きていくこと自体はよいことかもしれないけれど。

克也たちは最後にもういちど、タイムカプセルを埋めるのだけど、未来にむけて残したいものって、難しいな、と思いました。
私だったら、いったい何を入れるんだろう?
家族の思い出?自分が生きていた証?よくわかりませんが。

いままで読んだ重松作品のなかでは、これはちょっと苦味がキツすぎのような気もします。それでも読むのをやめられないのは、重松さんの筆致によるもの。それと根底にながれる温かい目のおかげかな。さすが、です。