ナルニアさいごの日…「さいごの戦い」
- 作者: C.S.ルイス,ポーリン・ベインズ,C.S. Lewis,瀬田貞次
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/11/11
- メディア: 単行本
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さて、とうとうナルニア最終巻です。
この本も例によって例のごとく、すっかり記憶がうすれていた私でしたが。それでもあの印象的な場面は忘れられない。というか、イメージだけが残っていたのでした。精選されたイメージのようなものが。ポーリン・ベインズさんのイラストを見たら、思い出しました。その感じ・・・感動で胸がいっぱいになって、でもどこか寂しい風が吹いている、そんな感じ。
この本のラストには、あっとおどろく結末が待っています。圧倒的な幸福感、至福の思い・・・そんななかにまじった物悲しい雰囲気。
アスランによって生まれ、長い歴史を刻み、善き王たち、女王たちに治められてきたナルニアという国、その誕生から滅亡まで。作者のルイスさんは描ききっています。みごとなまでに。
「さいごの戦い」というタイトルがしめすように、この巻にはナルニアにおける最後の戦いが描かれています。それに立ち会ったのは、ナルニアさいごの王、チリアン王。一角獣のたから石、セントールの星うらべ・・・
ずるがしこい毛ザルのヨコシマは、猿知恵によって、にせのアスランをつくり、ナルニアのものいうけものたちを支配し、カロールメン国とひそかに手をむすび、その配下につくように命令する。ライオンの皮をかぶらされて姦計の道具にされてしまった、ロバのトマドイのことは、最初なんでこんな悪者の言いなりになっているんだ、と怒りさえ覚えますが。
サルのヨコシマなんて、言語道断。なんて憎いヤツ、と思ってしまうのですが。そのうちそれよりも憎むべき輩が登場。さらに腹が立つといったら!
それにしても、動物によって見事に擬人化していますね。サルはサルらしく愚かしく、ネコはいかにもネコって感じで冷たくて・・・と、既存のイメージが強いですね。オオカミが悪の象徴みたいに扱われたりして。そういうところはちょっとなあ、って思います。
懐かしい顔ぶれもこの最終巻で揃います。はじめはユースチスにジル。そして・・・あっとおどろく結末。最初に読んだときはええーっ!!こんなのあり?でした。今回は予期してはいたけれど、やっぱり私はこのラストは受け入れがたいです。
美しく回復したナルニアのことはうれしいのですけれど、やはり引っかかるものがある。途中の伏線はあったけれど、最後の最後で決めになったのは、アスランのあの言葉でした。捉えかたによっては、とても美しく、耳障りのいい言葉なのですが。
夢からさめた、だなんていわないで欲しいです。いまだ影の国に住まう私たちには知りようもない世界。悩みも苦しみもない、限りなく美しい世界へと、往けた者は幸いでしょう。最後の最後にたどりついた世界がそんな世界だったのだとしたら・・・それはいいでしょうね。
「彼ら」はそこへいけたんですね。そうして永遠にその地で、新たな物語、冒険の日々を送っているのだと…けれど私たちには決して、その素晴らしい物語の扉がひらかれることはない、のです。そのことを思うと、ちょっとだけ胸が痛いです。
作者のルイスさんもそこへたどりつけたのでしょうか。きっとそうでしょうね。けれど、キリスト教がどうの、というよりももっと深いものがここにはあるような気がします。
アスランのもうひとつの言葉が思い出されます。カロールメンの神タシについて語った言葉。
すべての神は同じもので、悪い心をもったものにはタシの顔がそのものに向き、正しい心をもったものにはアスランの顔が向く、というような…。あの部分は宗教にも絡んでくるような内容で難しいですが。タシとアスランは同じものではないが、根っこはつうじていて、それぞれ逆の向きに顔がついている、多面の顔をもつ神のように思えました。
全7冊読みきりました。出来ることならば、映画は全部公開して欲しいですね。私のなかで、いっぱい観たい場面ができました。とりあえずは次回作の「カスピアン王子のつのぶえ」で再会したいです。