ここからはじまる・・・「魔術師のおい」
- 作者: C.S.ルイス,ポーリン・ベインズ,C.S. Lewis,瀬田貞次
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/11/11
- メディア: 単行本
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いきなりですが、これは☆5個つけちゃいました!
何と言っても面白かったんですもん。今日は雨降りで、読書に適した日だったのかもしれませんが。子どものお迎え、歯医者の予約など入っていたのにも関わらず、一日でとんとんと読めてしまいました。それだけ面白かったということですね。(以下、ネタバレにご注意ねがいます)
さてこの巻では、いくつか重要な事柄が初めて明かされています。
その1:白い魔女がナルニアにきた理由
その2:街灯がナルニアに立っている理由
その3:ピーターたち兄妹の疎開先の教授の正体
その4:ルーシィが見つけた衣装だんすの由来
その5:ナルニア誕生秘話、もの言う獣たちの誕生
と、ちょっと書き出してみても、ぼろぼろ出てきます。
私はすっかりこれらの事実を忘れ果てていました。言い訳ですが、最初に読んでからもうかれこれ20年近く経つんですもの。記憶もうすれるってもん?
けれど、そのおかげで新しい関心をもって読めました。忘れててよかったかも(笑)。
時代的にはこの話は、「ライオンと魔女」よりも昔。
アスランがナルニアを創るその場に、立ち会うことになったのは、人間界からきたポリーとディゴリーという子どもたちでした。
アスランがナルニアを創る場面はとても美しく、絵になるようです。この場面、映像にしたらどんなに・・・と思います。歌をうたうことによって、生命が誕生していく、というのは、どうしてもトールキンの神話を思い出してしまう私ですが。ルイスのこれもまさに神話・伝説の類に近くなってますね。神々しささえ感じます。
白い魔女がナルニアにきてしまったきっかけというのも、件の街灯がナルニアの野に立つことになったわけというのも、たいへん面白く読みました。
ポリーとディゴリーが魔法の指輪で、最初にたどりついたあのふしぎな空間・・・世界と世界のあいだの林。あれも魅力的でしたねー。あの池が一個一個の別々の世界につながってる、というのも読んでいてドキドキものです。欲をいえば、ふたりにもっともっとあちこちの世界を旅してもらいたかったな。そうなると、ダイアナ・ウィン・ジョーンズみたいになってしまうかもしれないけど。
ディゴリーたちが、ナルニアに悪をもちこんでしまったというのは、パンドラの箱を思い起こさせます。いいもののなかに、悪いものが紛れ込んでしまうというのは、創世神話などによくある話なのかもしれませんね。
そして新しく誕生したナルニアの王と女王(フランクとヘレン)。彼らは元はといえば・・・・なのですが。今後、悪の混じりこんでしまったナルニアで、どのような世をつくっていったのでしょう。
白い魔女が永遠の冬をナルニアにもたらすまで。ディゴリーが蒔いたリンゴの木が守ってくれるのだろうけれど・・・それは、まだまだ平和な時だったのでしょうか。
この話から、「ライオンと魔女」の時代までは、しばらく隔たりがあります。出来たらこの間の時代の話も読みたかったですね。
それこそ、ルイスにあなた自身が書いてみなさい、と言われてしまいそうですが。(実際、子どもたちへの手紙にそう書き送っていたそうです)
ディゴリーのおかあさんが病気になるというエピソードは、ルイス自身の経験に基づいたものだったのでしょうね。(母親を癌で亡くしています)
ここには、ルイス自身の祈りのようなものがあったのかもしれない。最後、リンゴを食べる場面は、何ともいえないものがありますね。
このリンゴの実というのも、アダムとイブの禁断の木の実のイメージがあり、また不老長寿の霊薬のようなイメージもあり、いろいろなものを連想させてくれました。
不正に、ぬすんで食べてしまったものには、深い絶望をもたらす、ということもそう。それで、あの魔女は孤独になった、というのでしょうか。どんなものを得ても満たされぬ欲望というような・・・
この話がもとになって、「ライオンと魔女」以降の話につながっていくのだと思うと、これはなんて重要な位置にあった作品かと思います。実際に書かれたのは「ライオンと魔女」よりはあとになるそうですが。どんなふうな経緯で執筆されたのか、それを知ることもまた興味深いですね。また関連書など読んでみたいです。
さて、ナルニアもいよいよあと一冊になりました。最終巻、どんなふうに感じられるのか?これもまた興味深いことです。