七人の作家による饗宴・・・「七つの黒い夢」

七つの黒い夢 (新潮文庫)

七つの黒い夢 (新潮文庫)

七人の作家によるアンソロジーです。黒い夢とタイトルがついているように、ダークなファンタジー風味の短篇ばかりでした。
私は、乙一恩田陸北村薫くらいしか読んだことがなくて、他の4人は初めて読みました。それぞれ特徴があってよかったと思います。既読の作家についても、ずいぶん久しぶりに読んだので、また新鮮でした。以下個々の感想などを。

「この子の絵は未完成」乙一
保育園に通っている息子にあるヘンな力、というのがおもしろかった。こういうのは初めてのような気がします。乙一さんらしいアプローチかもしれない。ラストはいい感じで終わっていました。

「赤い毬」恩田陸
これも恩田さんらしい一品でしょう。少女が毬をついているシーンはとても幻想的。全体的にふしぎな雰囲気が漂っています。この世ならぬ場所のように。でもどうしてあの少女はあそこで毬つきをしていたんでしょう?主人公の私の順番がきたら、どうなるの?と、ラストは不明瞭でしたが、そういうところが恩田陸の持ち味なのかもしれません。

「百物語」北村薫
北村さんの作品がいちばんすっきりとしていて、読みやすくわかりやすい内容でした。夜に熟睡すると、体があるものに変化するという…いったいそれは何だったのでしょうか?読み手の想像にまかせるという感じでした。

「天使のレシート」誉田哲也
ちょっと森絵都の天使モノ「カラフル」を連想しましたが、全然違ってました。宇宙の構造なんてわからないけど、あの考え方だとどうのかな?頭がグルグルしそう〜。ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「バウンターズ」という話を思い出しました。途中、眠気がさしていたんですが、ラストではっと目が覚めてしまったという感じでした。

「桟敷がたり」西澤保彦
小気味よいテンポの、とても読みやすい文章だと思いました。結局、犯人はだれだったのでしょうねぇ?A、B、Cのうち、いちばん悪質なのは言うまでもなくCでしょうが、A、Bの場合も人騒がせなことですね。

「10月はSPAMで満ちている」桜坂洋
私はこれがいちばんよかったです。というか、奇妙なおかしさがあって、気に入りました。スパムというのは、いわゆる迷惑メールとかいうやつのことですね。毎日大量に送りつけられてくる宣伝メール。私も毎晩、このメールを消すことからPCを始めてます(笑)。で、なぜ10月かというと、それは実際に読んでみてください。坂崎嘉穂(かほ)という女性の人柄がおもしろかった。話し言葉に特徴があって印象的でした。それにしても、スパムの缶詰はそうとう不味そうですね。アメリカ人はほんとにそんなものを食べてるのでしょうか?理解できないですねー。

「哭く姉と嘲う弟」岩井志麻子
最初、一人称の話し言葉ではじまりましたが、なかなか雰囲気のある文章でした。挿入された志那の物語は、それぞれ印象的で、美しい世界ですね。何となく古文っぽい感じで…血と肉の匂いがするような、美文調でしょうか。具体的にどういうことになっているのか状況がつかめなかったのですが、最後の1ページ半でやっとわかりました。なるほど!という感じでした。


よかった順番でならべてみると、以下のようになりそうです。
桜坂洋北村薫乙一恩田陸西澤保彦誉田哲也岩井志麻子という順です。バラエティ豊かな内容で、この値段はお得かもしれない!?