ほんとになったら怖い世界・・・有川浩「図書館戦争」

図書館戦争

図書館戦争

この作家の本は初めて手に取りました。この本は新聞の書評欄で見かけ、気になっていたものです。
まずタイトルからして気になります。「図書館戦争」だなんて! そしてその名のしめす通りの冒頭部分・・・。軍事訓練に明け暮れる、図書館員・・・いや図書隊・・・というんでしたが。これにはやられました。


一、 図書館は資料収集の自由を有する。
ニ、 図書館は資料提供の自由を有する。
三、 図書館は利用者の秘密を守る。
四、 図書館はすべての検閲に反対する。
図書館の自由が侵される時、われわれは団結して、あくまで自由を守る。


これは、図書館の自由に関する宣言文です。日頃から図書館を利用させてもらっている癖して、こういうものがあることすら無知でした。
本書は、この宣言文をもとに、ある物語を描いています。

公序良俗を乱し、人権を迫害する表現を取り締まる法律として成立・施行された「メディア良化法」。その組織、良化特務機関に対抗するべく、図書館側が編成したのが図書隊という、いわば武力によって図書館の蔵書とその職員を守る組織でした。
そんなとき、主人公の笠原郁が出会った正義の味方、図書隊員。良化特務機関の検閲に遭遇してしまった彼女を助け、本をとりもどしてくれた“王子様”(!)だった。
この経験により、郁は図書隊員を志し、関東図書基地に採用される。教育に当たったのが鬼教官、堂上篤図書二正。自分よりも背が低く、チビの教官の傍若無人ぶりに、郁は反感でまくりで、その背中に飛び蹴りを食らわしてしまうほど。

闘う図書隊員と、有害本を検閲し、利用の制限を設けようとする良化特務機関という設定、スリリングでハートフルなストーリー展開、個性的なキャラクター、と見所いっぱいの作品でした。

けれど、奇抜な発想をした、空想娯楽小説かと思いきや、現代社会に対する痛烈な批判のようなものも随所に感じました。とくに、四つめ(図書館はすべての検閲に反対する。)、学校図書館の利用の制限、つまり未成年者による図書の利用の制限に関する話がそうでした。
重犯罪を起こしてしまった少年の、読書記録を公開して、そういった図書は事前に排除して、未成年者の目に触れさせることを禁じようという動きです。
つまり、これこれの本を読んだから、この少年は犯罪を起こしたのだ、だからその元になった本を除外しようという考えです。

これを読んでいるとき、実際の事件が頭をちらつかずにいられませんでした。何か事件が起こるたびに、犯人の未成年者が興味をもっていた本や映画が注目されるという事態。
そういう本を読むからいけないのだという風潮。これには以前から、疑問を抱かずにいられなかったです。

この小説でもこのことに関し、疑問符を投げかけています。『子供の健全な成長を考える会』に反対し、波紋を投げかけた少年たちの行動には納得できるものがありました。青臭いことを(痒いことを)言っているかもしれないけれど、彼らの行動には真実があった、ということですね。

いったい、本によい本と悪い本という違いがあるのでしょうか。面白い本と面白くない本というのはあり、でしょうが。各人の価値観によって、どのようにでもありうるべきものだと思います。読む本を規制するだなんて、ゾッとしますね。もちろん年齢によって見るべきでない、というものはあるでしょうけれど。読む本を規制するということは、その人の思想まで管理しようとするようで怖いです。
この本を読んで、あらためて読書が自由にできる世界でよかった!と思います。

こういった小難しいことを考えないでも、単純に娯楽作品として十分に楽しめる内容でもあります。図書館に関する部分など説明的で、多少読みにくいところもありましたが、それを補って余りないものがありました。

堂上教官と、笠原一仕のやりとりも楽しいし。上司と部下だけれど・・・じつは、なんていう楽しみもあったりして、けっこう好きです。この話はどうやら、まだ続きがありそうですね。作者も書く意志がありそうですし。

文章もライトノベルらしいヒトの文章で、面白かったです。とくに会話がね、何か笑っちゃいます。ツボに入っちゃうというか・・・続きがでたら、ぜひ読んでみたいですね。