「紙魚家崩壊 九つの謎」北村薫

紙魚家崩壊 九つの謎

紙魚家崩壊 九つの謎

これはさすが北村薫さんの本、という感じで安心して読み終わることができました。
副題に「九つの謎」とついていることからもわかるように、これには9編の短編が収録されています。

どの話も読み応えがあります。
ホラーっぽい話、人情的な話、日常の謎っぽい話、などなどいろいろありますが。どれも北村薫テイストで、楽しめました。

とくに印象強かったのは、最後の「新釈おとぎばなし」です。
要するに、おとぎ話のパロディーなんですけど。
パロディーや本歌取りなどに対する北村さんの考えなど入れられていて、おもしろかったです。
とりあげられていた話は、イソップの「アリとキリギリス」と日本の「カチカチ山」です。

「アリとキリギリス」は、「アリ」の一字を「あれ」(It)に変えたらどうなるか?面白い試みでした。
ちょっと怖い内容になりました。

「カチカチ山」は、本格ミステリ〈おばあさん殺人事件〉に化けました。
あらら〜、てなもんです。
ただの日本むかし話が、北村さんの手にかかると、こんなに変わっちゃうんです。
読んでいけば、ミステリとして確かに成立していると思ってしまう、納得させられてしまいました。
北村テイストの新おとぎ話、よかったです。


ただ、タイトルにもなった「紙魚家崩壊」ですが、同じ系列の話が二つありましたが、私はどうもいまいちピンと来ませんでした。

「両手が恋している女と探偵との第三十七番目の事件」、と「第三十八番目の事件」というのですが。
本格ミステリ好きの方や、ミステリという構図がお好きな方が、読まれたら面白いのかもしれません。
私はミステリのためのミステリ、のような話はいまひとつ好まないようです。