「帝王の陰謀」〈ファーシーアの一族2〉ロビン・ホブ

帝王(リーガル)の陰謀 上 <ファーシーアの一族2> (創元推理文庫)

帝王(リーガル)の陰謀 上 <ファーシーアの一族2> (創元推理文庫)

帝王(リーガル)の陰謀 下 <ファーシーアの一族2> (創元推理文庫)

帝王(リーガル)の陰謀 下 <ファーシーアの一族2> (創元推理文庫)

〈ファーシーアの一族〉2作目です。やっと読めました。
今回はまた2冊そろって分厚くて・・・(本のお値段も高い!)なにせ、前作を読んでから時間が経ちすぎていたので、話を思い出すのに手間取ってしまいました。
そのせいか上巻はちょっと時間がかかってしまいました。でもその代わり、下巻は一気読みでした。つまり、それほど面白かったんです。

今回の話では、フィッツの不運がもう徹底していて・・・だんだん読んでいてつらくなります。

まず、山の王国から帰ってきたフィッツ。毒をもられ、体を壊してしまって、別人のようになってやっとのことで帰国した彼を待っていたもの。それは当然ながら、彼の存在を憎み、陰謀を企む者たち・・・
その陰謀の黒幕は、もちろん帝王(リーガル)王子。第三子であり、本来なら王座とは遠い位置に座すこの王子は、長子のシヴァルリ王子の死後は一歩、王座に近くなっていた。リーガルにとっては唯一の邪魔な存在になったろう、真実(ヴェリティ)王子。彼が継ぎの王(後継者)となり、山の王国から王妃を迎えるようになって・・・リーガルは自ら王妃を迎えにいく素振りをして、その実、陰謀を張り巡らせていたのです。それによって山の王国の事件が起こったのでしたが・・・

リーガル王子の目論みは?表向きには、父シュルード王に従っているふりをしているが、その底では腹黒いたくらみをめぐらしているに決まっています。宮廷にもどってきたフィッツの苛立ちがつのっていく・・・。

一方、幼なじみのモリーとも再会するフィッツ。だが、彼は王に誓約した身、恋することもままならぬ。そしていかに私生児とあれど、町の娘であるモリーとフィッツとは本来、世界が違う。二人が結婚できたとしても、その将来はどうなる?彼女を幸福にできるのか?と、先の継ぎの王妃だったペイシェンスらにたしなめられたり、当のモリーからも拒絶されたり、とフィッツの恋は前途多難。

また山の王国から嫁してきた王妃ケトリッケンも、孤独のうちに身をおいていた。六公国のために身をすり減らして〈技〉を用い、赤い船団と戦っていたヴェリティ王子とすれ違いの日々を送っている・・・。周囲ともなかなかなじめず、異国からきた者として浮いた存在となってしまっていた。
フィッツはケトリッケン王妃のために、気を遣い、王妃の庭を与えてはどうかとヴェリティ王子に進言したり、ペイシェンスに声をかけてともに過ごすようにと促してみたり、いろいろ画策して・・・

自分の悩みだけでも手一杯のはずなのに、フィッツは周囲にも気を配り、六公国の運命についても心を砕いているんですね。本当に、涙がでるほど・・・です。
フィッツ、あんたは偉い!!といいたくなります。
また、父親であるシヴァルリ王子にそっくりに成長してきたフィッツ。物言いといい何かと似てきたと周囲…父の妻であったペイシェンスに言われたりして。リーガル側の者からは、私生児と相変わらず蔑まれているし、その理不尽さには怒りすら覚えます。

赤い船団の問題もあります。ヴェリティの考案により、戦艦を建造。それは赤い船団に対抗するためのものでした。フィッツはその中で、ヴェリティ王子との連携役を担い、船に乗り込んでいきます。その中で、毒に蝕まれた体がだんだん癒され、たくましくなっていくのでしたが。

このおかげで賊徒の襲撃からも解放されるのかも、と思われましたが、なかなかうまくはいかないもので。そのなかで現われた、幻のようなあの白い船のこと。あれはいったい、何なのでしょうね。賊徒らの行う、溶化(ファージ):〔魂を奪われ、人間とは別物、獣のようになってしまう恐ろしい技〕とも関連があるのでしょうか。そして船に乗っていたという男のことも気になります。シェイドの書いた日記の文章のなかに、気になる叙述があったのですけど・・・これはそのうち解明されることなのでしょうか。

下巻で、六公国を救う唯一の希望として、ヴェリティは伝説の旧きものの探索の旅に出かけていきます。すべては赤い船団との対決のために、でした。

この旧きもの、というのがよくわからなかったのですが、それはかつてバックキープの王に救いの手をさしのべてきてくれた存在であり、またいつか公国存亡の危機があった折には、手を貸すことを約束してくれた、というのです。いわば伝説に歌われた存在であったらしい・・・!? 

ヴェリティはそれを探しに、山の王国の彼方まで出かけていくのですが、この無謀な試みに残された人びとはいい印象を持ちませんでした。まるで夢物語に憑かれた男として・・・宮廷の上から下の人間すべてのものにその考えが浸透しているようで悲しかったです。ヴェリティ王子を批判し、リーガル王子をよく言う料理人サラの言葉からも厳しいものを感じました。

さて下巻では、フィッツにはさらに厳しい手が迫ってきます。
上巻で心と心を通わせて、互いに群れの兄弟という認識にいたった狼との関係。それが下巻でだんだん明らかになっていきます。〈気〉を使い、動物と魂を通わせる人間は、この世界では異端視されているのです。
この狼ナイトアイズとの関係において、フィッツは何かと助けられ、ともに狩りにでかけ心を同化させることで、この上ない高揚感をも得るのです。

前作でも犬との関わりが描かれていましたが、この巻ではそれがさらに顕著になっています。なぜ、この世界では〈気〉が疎まれ、それを使う人間を否定するのか?疑問に思っていましたが。その答えが、ラスト近くでぼんやりと見えたようでした。

またファーシーア一族の者が操る〈技〉とどう違うのか?ややこしくもあったのですが、この巻ではその力の違いや、新しい使いかたなど一歩すすんで描かれていて、この点でも興味深かったです。とくに、フィッツの〈技〉を通じて、ナイトアイズの〈気〉が攻撃をしたところなど。また、肉体と魂を切り離し、狼と同じ体に宿ったこと。またフィッツが用いる〈技〉の描写について・・・ヴェリティを呼び出すために、王シュルードの力を使ってしまった場面など、黒い川という描写がありましたが、あれが〈技)と呼ばれる力を目に見えるかたちであらわしたものなのでしょうか。

などなど・・・ この巻では、じつに様々な事柄が描かれていて、それを追っていくだけでも面白かったです。とくに下巻の急激な展開には驚きました。まさに急流に乗った勢いでした。
ラストについても同じ。ただただ、フィッツの運命の変転に心が痛むばかりです。
リーガルの横暴には全く頭にきますし、探索に行ってしまったヴェリティはいったいどうなってしまったんでしょう。フィッツと別れ、隠れひそんでいるらしいモリーのことも気にかかります。

本当に気になることばかりです。続けて次作も読みたいところですが・・・先に図書館本を読まなければなりません(泣)。しばらくおあずけ状態ですが、でも本は手許にあるので。本当、先に読まなくてよかった。でなかったら、いつ出るの?続きは〜!?などと悲鳴をあげていたでしょうから。