「パズル・パレス」ダン・ブラウン

パズル・パレス (上)

パズル・パレス (上)

パズル・パレス (下)

パズル・パレス (下)

私がダン・ブラウンの作品を読んだのは、これでもう4作目ですが、実際はこれがデビュー作だったんですね。
処女作とはいえ、十分面白さはあったと思います。のちの『ダ・ヴィンチ・コード』他諸作へと通じる要素のすべてがここにあった、と言っても過言ではないと思います。
相変わらずテンポよい展開、驚くべき内容、そして黒幕は意外な人物(さすがに見抜けましたが)・・・と、処女作からしてこのすべてを兼ね備えている作家なんですね。
何のかんのいっても、やはりダン・ブラウンはすごい!です。

今回の話は、コンピュータ関連の話でした。
本のカバーについていた紹介文をそのまま引用します。

(引用開始)
全通信を傍受・解読できるNSAのスーパーコンピュータ「トランスレータ」が狙われる。対テロ対策として開発されたが、一般市民の通信全てをも監視可能なこのコンピュータの存在は決して公にできない国家機密であった。だが、この状況に憤った元スタッフが、自ら開発した「デジタル・フォートレス」という解読不可能な暗号ソフトを楯に、「トランスレータ」の公表を迫ったのだ。このソフトが流布されれば、アメリカは完全に無防備になってしまう…。
(引用終了)

これは、情報化時代だといわれる現在にも十分通用する話だと思います。作者はこれを十年前に書いていたのですから、すごいですね。
予測能力が高いのでしょうか。それと想像力?

内容も詳細に書かれており、そっくりそのまま現実にあるものかと思ってしまうほど。
NSAという組織は現実にあるものだそうですし、(無知なもので知りませんでした)作品中、<トランスレータ>という名前で出ていたコンピュータと似たような、「全世界的通信傍受システム・“エシュロン”」というのがあるそうですね。この存在が公になったのは、この作品の刊行よりずっとあとの2001年だったそうです。

ほんとに、ダン・ブラウンという作家は現実に存在する物事をベースに架空の、けれど十分現実にもありえそうな、本物っぽい話を書くのが上手ですよね。
そのせいか、単なる絵空事として片付けられない問題が多く含まれている気がします。

この通信傍受システムというのもそう。こんなのが実際にあるなんて!全く知りませんでした。
もちろん一般人の通信を興味本位で覗くなんてことはないと思いますけど、これがあるために全世界で起こりうるテロ等の事件を未然に防ぐことができるのでしょうから。
でも個人のプライヴァシーとの兼ね合いもあるでしょうし、難しいですね。

ダン・ブラウンはそこら辺の問題をうまく書いています。
主人公の男女二人の活躍も、それぞれ楽しめました。今回はいつもと違って二人は別行動でしたが。
男性側(ディヴィット・ベッカー)はスペインをわけもわからず走り回り、女性側(スーザン・フレッチャー)はNSAのコンピュータ<トランスレータ>が設置されているクリプト内であれこれふりまわされ・・・交互に話が進んでいきます。

交互に語るという手法がいいのか、話のテンポがいいのか、両方でしょうが、そのおかげで今回も次はどうなるのかという興味があって、あっという間に読めました。

あと作品中に、日本人が登場するのですが、これがとっても日本人らしくない日本人で。名前からしてそうなんです。エンセイ・タンカド、トクゲン・ヌマタカ・・・外国人が考えた日本人って感じで、苦笑させられました。いったいどういう漢字を当てるのかな?とちょっと考えてしまいました。他にもちょっと誤解しているのでは?と思うところがあり・・・それがちょっと違和感でした。

現在、作者はラングドン・シリーズ三作目を執筆中だそうですが、次回も大いに期待したいところですね。