「死者の書」ジョナサン・キャロル


死者の書 (創元推理文庫)

死者の書 (創元推理文庫)


積読本の山から引っ張り出してきて読みました。なんでまた突然、こういうの?と思われるかもしれませんが。
これにはちょっとわけがあります。
先月18日に、翻訳家の浅羽莢子さんがお亡くなりになりました。この方の翻訳本には非常にたくさんのものがあり、私も少なからず読ませていただいておりました。タニス・リーに、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、その他もろもろ。浅羽さんの訳で知ったファンタジー作品の多かったことか!


そういうわけで、9月末から浅羽さん追悼と称して、未読の翻訳本を読もう!キャンペーンを自己展開中〜!・・・と言いたいのですが、まだ一冊しか読めておりません。


この『死者の書』はジョナサン・キャロルのデビュー作ということです。私は翻訳本を新刊で買ったはずなのに、いつのまにか読まないまま埃に埋もれさせてしまってました。
そのことを後悔はしましたが、でも今読んでも決して色褪せないものを持っていると思いました。


死者の書、というからには死者が出てくるのだろう、くらいにしか予想していませんでしたが。しかし・・・
まさかこういう展開になっていくとは思いもしませんでした。ストーリーの詳細を書くと多大なネタバレとなってしまいそうなので書くことは諦めますが。


文庫の紹介文をちらっとだけご紹介。


「ぼくの目の前で、少年がトラックにはねられた。事故のあと町の人間が聞いてきた。『あの男の子、はねられる前は笑ってました?』笑って?……ここはアメリカの小さな町。一人の天才作家が終生愛した町。ぼくは彼の伝記を書くために逗留している。だが知らなかった、この世には行ってはならない町があることを。」


マーシャル・フランスという架空の作家の人生を追って、主人公のぼくが、ゲイレンというアメリカの町に着いた瞬間に、それは始まっていたのです。
同じく、彼の手助けをしようとともについてきた恋人サクソニーの身にも。


こんなふうに書くと、なにやらすごいホラー作品のように見えてしまうと思いますが、全然そんなことはありませんでした。
むしろ、文学的な香りが漂うくらいで。
かといって小難しいことは何もなく。
ぼくと恋人の身の上に起こった、驚異的な出来事に驚くばかりです。


浅羽さんの訳文がまたよかったです。さすが、ですね!
「ぼく」が一人称の作品ですが、その他の人物の像までがくっきりと現われています。もちろんそれは著者のジョナサン・キャロルの賜物なのですけど。でも訳者の力というのも、十分あると思うんです。


本当に、惜しい方を亡くしたと思います。ご冥福お祈りします。