[ガールズ・ブルー」あさのあつこ

ガールズ・ブルー (文春文庫)

ガールズ・ブルー (文春文庫)

意外に思われるかもしれないけれど、私はあさのあつこさんの本は今まで読んだことがなかったのでした。本は買ってます。次々と文庫化されていくものをずらりと。でも「バッテリー」の文庫が出揃うまではと思い、今まで積読していました。
それがどうして読んだかというと、下の感想にも書いた、草野たきさんの『透きとおった糸をのばして』の解説文をあさのさんが書かれていたから、でした。文章に好感をもったのと、これも縁と思ったのと両方の理由から、ひとつ読んでみようっと思うようになったのでした。
前置きが長くなりましたが、数あるあさのさんの本の中からさらにこの『ガールズ・ブルー』を選んだ理由と言うのはたいした理由というわけではありません。最近、文庫化されたということと、シリーズものでなない単発ものだということから、です。

で、これまた解説の金原瑞人さんの言葉によれば、この本は今、ベストセラーということで売れている『バッテリー』や『NO.6』などの作品とは、まったく変わった傾向の作品だということです。

全然、目立つこともない、ありふれた女子高生の物語です。新刊の『ありふれた風景画』が上げられています。おたがいが惹かれあう女子高生の話だそうです。ありふれた普通の言葉で、読者をいきなり追いつめる、とあります。
その意味で、この『ガールズ・ブルー』も同じで、事件らしい事件も起こらないお話です。普通の女子高生がふられたり、ふったり、花火大会にいったり、犬をつれて海にいったり、そんな日々。
ありふれた女子高生が、ごく普通にお喋りして、多少の危機感はあれど毎日がのんべんだらりと過ぎていく。

文章自体も、女子高生の会話そのものって感じで。本物はいざ知らず、ここまで忠実に(?)再現してみせた、あさのあつこさんの筆力にも脱帽?ってところでしょう。

もう、何も起こらないことが主体の話で、さらさらーっと読めてしまいます。その意味、物足りなさ、食いたりなさを感じるところはあったけれど、でもまあ、こんなのもたまには悪くはないかなあと感じました。

主人公の理穂のクラスメイトに如月っていう、ちょっと変わった(?)男の子がいるんですけど。その如月には一個上のお兄ちゃんがいて、それが睦月という名で、その彼は別の高校で、野球やってるんですって。
毎日が野球漬けで、彼女つくって遊んでる暇もないという生活送ってるそうで。弟の如月はそういうのに耐えられなかったのか、わかりませんが、同じように小学校時代にはサッカーやってた、っていうのに今はすっぱりやめて、関係ない高校(ちょっとレベルが下の)に通っています。

その兄弟(睦月、如月だなんてなんて名付けしたものだ!面白い)は、やってることもそうなら、性格もまったく正反対って感じで、でも何故か、甲子園めざして野球やってる睦月よりも、如月の方に魅力を感じてしまうのは一体どうしてなんでしょうね? 如月の方がなんと言うか、幅のようなものを感じられて。余力がある、と言うんでしょうか。睦月の方は、毎日がせっつくような日々で、余裕が感じられないんですよね。如月の夢をみても、その片鱗がうかがえるでしょう。夢はアフリカ横断、って感じで・・・でっかいなぁって感じ。

まだよくわかりませんが、きっと睦月ってのは、あさのさんのほかの作品『バッテリー』なんかに出てくる主人公らの側なんでしょうか。この話では、睦月のことは人の噂話にでてきたり、電話の声という形で持って登場したり、と、実際の彼のすがたは描かれていません。
そんな彼の本当の姿は、『バッテリー』で、ということになるのでしょうか。そっちを読めばわかるようになってるのかな、などとふと思いました。

あちらは正統派、でもって、こちらはちょっと異端派、といったら語弊があるかもしれませんが。傍流派、といってもいいかもしれない。
となると、私はその傍流派に属する作品を最初に読んでしまったということになるの!? ちょっと邪道でしたかね。 などと思うところもありますが、読んでよかったとは思います。