「太陽の塔」森見登美彦

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

やっと私もこの小説を読みました。いろんなところからよいという話は聞きますが。でも、ちょっと時間がかかってしまいました。こんな薄い本なのに、かれこれ6日はかかってます。

元京大生で、今は寿司屋でバイトしているという貧乏学生が主人公の話。ほんとこういう学生って、そこらに転がっているのかも、と思いながらも、文章から受ける印象はちょっと一昔まえの学生という感じもおぼえました。

私は京都には旅行でいったことがあるくらいなので、本物の京大生がどのような生態で、思考をするものなのか検討もつきませんが、そういうこと抜きでも楽しめたとは思います。
途中にはさまれた、一種幻想的な風景も、まるで宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を思い起こすような気もします。
こちらでは、叡山電車の夜、ですが。

現実と思っていたものが、ある人物の心象世界だったという、不可思議なものもありました。

また恋人のいない学生がクリスマスの時期を憎む、というのも、また鴨川べりに等間隔に並んでいるカップルのあいだにあえて割り込んでみるという、自虐的行為についても、笑えると同時にうん気持ちはわかるよ、といいたくなりました。

この作品世界のなかで、太陽の塔は、象徴のようなものなのかな。元・恋人の水尾さんが惹かれる気持ち、わかるようなわからないような。
私自身は実際に見たことはありませんが、きっと異様でいて、他を圧するものなんでしょうね。「宇宙遺産」という言葉がぴったりのような気もします。

あと衝撃だったのは、ゴキブリキューブ。実物は想像するだに恐ろしいですが、そのシーンは今思い返しても、そそけ立ちます。もしこの作品が映像化されるとかいう話があっても、その場面だけは絶対に見たくないです!虫嫌いの私は、断言します。

ラストは、何なんだという気がしないでもないですが。
「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。」
という一文がどう変化するのか、そこのところがおもしろい、のかもしれません。
あと、この彼らっていうのは、主人公ら京大生のことをさしているんでしょうか。
京都を舞台にした学生たちの青春物語、ってところかな。+アルファで、幻想小説。うーん、私にはちょっと…って感じでしょうか。