「天と地の守り人 第三部」上橋菜穂子

天と地の守り人〈第3部〉 (偕成社ワンダーランド)

天と地の守り人〈第3部〉 (偕成社ワンダーランド)

守り人シリーズ、最終巻でした。
このシリーズ、もう十年も書き続けていたのですね。すごい〜。作者さまにエールを送りたいくらいです。
で、やっと完結編ですが。
いったいどうなるのかと思ってたんですが、きれいに終わってくれました。よかった、です。

物語は、最初の発端となった、チャグムの祖国、新ヨゴ皇国へと帰ってきます。
大軍勢で攻めてきたタルシュ軍に蹂躙され、惨敗か枝国となる道を選ぶか、どちらか、とまで追い込まれてきてしまった。
一方、この地上と重なる世界、ナユグの世界にも異変が起き、その影響がチャグムたちの世界にも及びつつありました。大災害が起こる、その前に何とかしようと、いろんな人がそれぞれ努力をしていました。


トロガイたち呪術師の仲間たち。ロタとカンバルの軍勢をつれて舞い戻ったチャグム皇太子。星読博士シュガたち。
戦に狩り出されたタンダの行方を探すバルサ

それぞれがおのおの出来ることをせいいっぱいやりつづけ、迎えた結末。
それはまるで最初の物語、『精霊の守り人』に戻っていくかのような物語で、それでいてずっと新しい物語でした。
これから先の展望が見えるような、期待を持たせるような終わり方で、ほっとしました。


チャグムはまた大きく成長していました。最初のあのおどおどした幼い少年が、こんなに立派になって、とまるで年老いた母親がわが子を見るような視線になってチャグムを見てしまいます。バルサの気持ちがよくわかる気がしました。

チャグムの実の母親のエピソードもほろりときました。わが子を思うあまりの行動でした。
妹弟たちも久しぶりに登場して、かわいらしさのなかに未来を見るようで、よかったです。


そしてバルサとタンダの再会も…。タンダには苛酷な運命だったかもしれませんが、でも会えてよかった。
あのシーン… 木にもたれかかっている二人のすがたが、心の目に焼きついてしまいました。よかったよかった。


タルシュの側も、落ち着いてくれてよかったように思います。私のひそかなお気に入り人物、ヒュウゴもふたたび登場して、結構だいじな役どころだったので満足です。


チャグムと父親である帝との再会は、少し悲しかった。しかたのないことかもしれないけれど。帝は帝として生きることしか出来なかったのですね。


一応、物語は終着を得て、とりあえず守り人シリーズとしては終わりみたいですが、あとがきでバルサの若い頃の話など、とあったので、思い切り期待しています。これは、ぜひ実現してもらいたいですね。


どういうかたちであっても、またいつかバルサに再会したい…。


新ヨゴ皇国の未来を担う者となったチャグムも、四路街で新しい生活をはじめたアスラとチキサの兄妹も、きっとそう思っていたに違いありません。
いちどでも彼女と出会ったものならば、そう思わずにいられないだろうと思うのです。
それくらい、鮮烈で印象的な女性だった。尊敬に値し、誰もが憧憬の目で見つめるバルサ

読者である私たちにも、彼女は憧れのひとだった。強くてやさしくてかっこよくって、そして一本筋をもった女性。
こんな人はそうはいなかったと思います。

また守り人の物語を、最初から読んでみたいです。チャグムとバルサの、そのほかさまざまな人びとの物語を。最初に読んだときには気づかなかったいろいろなことがまたわかってくるのかもしれません。

そのときを楽しみに…。いまは静かに本を閉じたいと思います。