「獣の奏者Ⅰ、Ⅱ」上橋菜穂子

獣の奏者 I 闘蛇編

獣の奏者 I 闘蛇編

獣の奏者 II 王獣編

獣の奏者 II 王獣編

これはとても考えさせる本でした。もちろん、ストーリーも面白いけれど。

「けっして人に馴れず、また馴らしてもいけない獣とともに生きる、宿命の少女エリン」

というのが、1巻の帯についていましたが。
まさにこのことでした。この本の主眼としてるものは・・・
獣と人との違い、共感できるようでいて、でもけっして相容れぬ部分は必ず存在しているのだ、ということをひしひしと見せ付けられました。

2冊あわせてほとんど一気読みしました。
闘蛇(とうだ)と王獣(おうじゅう)という二種類の生き物が登場しますが、外見などからは二つの生物はまるで別物のように思えるのですが、でもこの二つは似ている部分があるように思います。それがどういうところなのか・・・は、実際本を読んでいただくとして。

主人公のエリンはこの生き物たち(とくに王獣)と深くかかわっていくのですが、その過程でいろいろなことを深く考えていきます。

他の動物たちと比較してみたり、実際、いろんなことを実行してみたり、と実行力もあります。
こんなふうに、試行錯誤しながら、でも確実に何かをつかんでいく、この少女エリンというのはすごいですね。
生き生きとした描写にも魅力を感じます。


もちろん、エリン以外にも魅力的人物はいっぱいです。
エリンを拾って育ててくれたジョウンおじさん。
カザルム王獣保護場の教導師長エサル。
なぜか関西弁の、エリンの親友になった少女ユーヤン。
同じく先輩のトムラ。

また、リョザ神王国の真王(ヨジェ)ハルミヤ。その孫、セィミヤ。
その甥ダミヤはちょっと悪に傾いた感じ。
(この「ミヤ」とついてるのは、日本の○○宮といっしょ?と思ってしまいました。どうなのかな)

神王国の国防を担う大公の長男シュナン。
真王の護衛士「堅き楯(セ・ザン)」の一人、イアル。


などなど、これらの人びとが織り成す物語。堪能しました。

あと王獣というのは、翼竜を連想しますね。
エリンとリランの関係は、ちょっとマキャフリィの『パーンの竜騎士』を思いこしたり。

対する闘蛇というのは、日本的龍というよりもより蛇に近いイメージでした。長虫とかいう表現で現していた、お話もあったような。


真王というのが、昔、山脈を越え、王祖ジェという人物がこの地に降り立ち、そこからまた種族がひろがった、とされているのですが、その真相というのが最後のほうでわかって愕然としました。そうだったのか!と。
まさかそんなこととは!という驚きと、何も知らぬまま生きている人びとのことを考え、なんともいえぬ気持ちになりました。
この国がこれからどうなっていくのか、王獣との係わり合いをどうすればいいのか、最良の方法を探していくエリン。
そこには、母の一族との考えの違いがよく表れていました。「音無し笛で王獣や闘蛇を硬直させるように、あなた方は、罪という言葉で人の心を硬直させている」
何が災いで、何がそうでないのか。よくわからなくなってしまいます。


ラストは感動的最後で、終わってよかったですが、物語は終わったけどこのエリンという少女はこれからもずっといろんなことを考え続けていくんだろうな、と思わせられました。
物語が終わっていても、話のなかの世界はまだ終わっていない、ずっと続いているんだ、というこの感じはいいものですね。

あらためて上橋さんという作家さんの大きさを思い知らされた作品でした。今後も期待して、新作を待っていたい作家さんです。