「一瞬の風になれ １〜３」佐藤多佳子

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ-

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

佐藤多佳子さんの新刊、３冊まとめ読みしました。
陸上選手の話。一秒でも速くなることを目指して、高校の３年間を過ごした少年たちの物語。

ひとことで言って、爽快！な味わいでしたが、当人たちにとっては他人のうかがい知れぬ苦悩の日々だったと思います。
その日々をいちいち追っているだけで、読んでいるこちらにもその感動が伝わってくるようでした。

主人公の新二は元はサッカー選手だったけれど、プロを目指してるその兄に追いつくことはかなわず、すでに諦めてしまっていました。その代わり、新二には思いもよらぬ才能があった。
走るということ。
ただ走るということ、それが新二にとって、あらたな道となって開かれたのでした。

その新二もだが、同級生で中学から陸上をやっていたが途中でやめてしまった・・・などという経緯のあった一ノ瀬連。
彼らは、いわば陸上の神さまに愛されたような存在で、いろいろと苦労はあっても結局はその才能を開花させる能力があった。
けれど、欲しくてもそれが手に入らない人物もいて。
それが根岸という少年。

彼も陸上をずっとやっていたが、いまいち突き抜けることができず、一番をとることができない。

優れている新二たちと違って、この根岸の存在はこの話をぴりりと締めていたように思う。
いろいろと暖かいエピソードがあり、そのたびに心がじんとなる。

私はスポーツとは無縁な学生時代を送ってきたが、新二たちのような熱血スポーツバカ〜（死語？）な高校生活っていうのも、いいもんだなあとちょっと思いました。

兄の健ちゃんに対する、新二のコンプレックスとか、憧れとかそういうところもまたよかった。
とくに事故があって・・・とのくだり。
スポーツ選手にとっては怪我や故障はつきもののようなものかもしれないが、これはちょっときつい出来事だった。
にもかかわらず、諦めない健ちゃんもすごかったが、新二も新二ですごい！
いろいろ、いろいろあったのに・・・（その全部のエピソードがまた泣かせる）最後まで爽やかな感動で私たち読者をもっていってくれた、と思います。

ラストで、新二の前にひろがっていた光る道。
それは物語が終わっても、ずっとずっと彼の前にひろがっていく道なのでしょう。

最後できっぱりと終わってしまわずに、これからの新二を想像させるような終わり方で締めていたのがまたよかったように思います。