「ねじの回転」恩田陸

ねじの回転 FEBRUARY MOMENT

ねじの回転 FEBRUARY MOMENT

歴史の上でのIF・・・もしも、あのとき・・・だったら。過去にもどることさえ出来れば、もう一回新しい歴史を作れるのではないか。有名な歴史上の出来事でなくても、たんに個人的な歴史でも、そういったことを考えてしまうことがないでしょうか。
この作品は、そういったことについて考えさせてくれます。
扱っているのは、2・26事件。近未来の国連によって、もう一度歴史をなぞることになった事件の首謀者たち。
彼らは国連の意図に反して、かつての昭和維新を成功させようとするのですが・・・
恥を承知で告白してしまうと、この事件のあらましについて私はほとんど知っていませんでした。もう少し歴史のことがわかっていたらもっと面白く読めたのかもしれません。事件の首謀者たちの名前すら知らぬ、という無知な私でしたが、それでもひきつけられるものはあって、最後まで目が離せませんでした。

冒頭部分からひきつけられました。ちょっとずつ、いろんなところからピースをとってきて、それを少しずつ見せてくれるような。なので、最初ははっきり言って何のことやら?といった感が強いのですが、それもストーリーを追うごとにだんだんいろんなことがわかってきます。

最初は、どうして時間を再生して、もう一度かつての事件を繰り返さなきゃならないのか、という疑問がありました。これは、『聖なる暗殺者』(これは○○○ーのことですよね?)がどうとかいうくだりが出てきたので、何となくぼんやりとそういうことなのかな、とは思いましたが。未来に起こったその事件のことはちょっと曖昧な書き方っぽくなっていて、どうしても!という切迫感を感じることはなかったんですが。
でもそのために起こってしまった、未来における疫病。AIDSに習ってつけられた名称、HIDS。なるほど、これはSF的視点に立った、病気ですね。とにかく発症したら100%死に至る、っていう設定は怖い。いかにも〜な感じはするけれど…。

だいたい時間SFというのはそれだけで吸引力を感じるものなのですが。この『ねじの回転』でもそう。懐中連絡機など、SF的小道具もあってちょっとどきどきします。歴史的事実と食い違う部分が生じると、時計の目覚ましのような音が鳴って、「不一致。再生を中断せよ」とのメッセージが出てくる。そうなるとはじめて、保持者は国連に連絡ができる。それまでは何も連絡をつけることはできないとされていたってのがミソ?のちにずっと連絡ができなくなってしまう事態が起こるんですが、そうなったらみんな自らの思惑で勝手なことをやってのけてしまう。

でもそうなっても当然のような気がします。いくら理性的な説明をうけて納得したからといって、目の前にひとつの可能性がぶら下がってるとしたら・・・。当事者にとっては一回きりの人生。もう一度・・・!という夢を抱いたとして、何の不思議があるでしょうか。やり損ったからもう一度やり直す。成功するまでは何度でも!なんて夢のようなことですが。だけど、それにはやっぱり無理ってもんがあって。

維新の当時者たちの側に立ってみるのも面白いけど、国連側の人物たちの身になってみてもまた面白い。中でも、マツモトという人物。彼も重要な役どころを担っています。ところどころ挿入される、牛乳配達と逆上がりのシーン。最後に結びつき、ああそうだったのか!っていう快感がありました。これぞ時間SFの醍醐味?彼が遡っていろんなことをしてくシーンがまたえらいどきどきでした。
最後の選択もすごいことをやってのけた、って感じで。爽快感がありました。めぐりめぐってそれがまた・・・ということになっていて。そこがまたすごい!面白い!これぞ時間SFだ!て感じです。

最初の一個一個のピースだけを拾っていくとよくわからなかったものが、全体を通じて眺めてみると、はっきりとしたひとつの大きな絵となって現れてくる、こういう話はとっても魅力的。まさに、ジグソーパズルのような面白さでした。