「まひるの月を追いかけて」恩田陸

まひるの月を追いかけて

まひるの月を追いかけて


続けて恩田陸の本・・・ですが、先の2冊のSFと違って、またこれは拍子抜けするほど、ゆったりとした時間の流れている小説でした。まさに恩田陸!100の味わいがある・・・って感じですが。

まるで主人公らとともに旅をしているような気分にひたれる。《奈良を舞台に夢と現実が交錯する旅物語》と帯にありますが、ほんとその通りです。
奈良・・・とくに明日香の地に行ってみたくなりました。私自身がかつて訪れたのは高校の修学旅行。それ以来一度も行ったことがないです。京都などは行く機会があっても、奈良までは足を伸ばさないものですね。

最初は行方不明だという、異母兄を探して旅立ったはずだったのに、その謎もそうそうに解決してしまって・・・
これはミステリともいえないし、純粋な旅ガイドでもない。微妙な存在ですね。

強引に主人公をつれまわしてしまう、妙子という人物もあくが強いです。そのせいかあまり共感も抱くこともなく終わったけれど… 最後のあれはない、って感じ。まさかそんなことって…としばし絶句。
主人公の静の異母兄、研吾の選択も思いもよらなかったです。あまり世間一般では思いつかないような選択だったのじゃないのか、と。何も若いみそらで…って思ってしまいますが、それでも研吾にとってはこの世はあまりにも生きづらいところなのでしょうね。

時々、こういう生きることにすら困難な人の話を聞いたりすることはありましたが。
彼がいつも眠れない夜をすごし、その朝方に見る夢というのがまたえらい印象的ではあります。

とても詩的で幻想的な光景で・・・ それが最後の章あたりに現実になって現れる、というのもなかなか感動的なものがありますね。

静、妙子、研吾、そして優佳利。4人の心理を追った物語。私はよかったと思います。賛否両論あるようですが…。
本の装丁がまたいい。本棚に一冊あると、すごくその一角が印象的になるような…そんな本です。