「ネクロポリス」上・下 恩田陸

ネクロポリス 上

ネクロポリス 上

ネクロポリス 下

ネクロポリス 下

これは最初はファンタジーかと思って読み始めました。そしたらちょっと違ったみたいで… ファンタジーとホラーとミステリが融合したような作品!?って感じでした。
上下巻という大部で、今までにない長さでした。それだけに最初から夢中になって読んだかというと、正直、微妙〜という面もなきにしもあらずでした。
物語の最初に多少の入りにくさを感じてしまったってことがその一因でしょうか。作者や登場人物たちには周知の事実なのに、唯一読者だけに知らされてない、そんな印象をうけました。ちょっと置いてきぼりを食ったような感じといえば近いかな。

だからゆるゆると読んだけれど。だんだん話をつかめてくるうちに、じわじわと本のなかに没入していった私、でした。


アナザー・ヒルという場所がちょっと雲をつかむような話で、どこにあるのかもわからない。そこは懐かしい故人と再会できる聖地だという。もどってきた死者たちは「お客さん」と呼ばれ、家族や友人等近しいものに温かく迎えられる。それが「ヒガン」という国民的行事(?)になっているという。
その設定自体は面白いし、目新しい感じがして、惹かれるものがありました。

死者がもどってくるというと、まるで吸血鬼のようですが。そうではなくって、日本のお盆の行事彼岸と同じように、死者の魂がもどってくるのだ、という解釈です。その者の実体は目にも見えるし、触ることもできる。でもそれはアナザー・ヒルという空間においてのみ、ヒガンというお祭りの期間のみ、という限定的なもの。

それだけに人々は愛する者に再び会えることを願い、続々とアナザー・ヒルへとやってくるのでしたが。


全体的にいうと、設定はファンタジー、ストーリーの進行はミステリ(時々、ファンタジー?)、雰囲気としてはホラーぽい。
そんな印象でした。

とくに印象強かった場面は、ガッチをするシーン。あれは、ほんとに目に浮かぶようで、ぞっとしました。
ガッチ=合致かしら?とふと思いましたが、どうだったでしょう。

下巻では、上巻の終わりで提示された謎の答えが展開されます。悪魔的な彼の微笑み・・・それまでこうと思っていたものが豹変する恐怖を感じました。


アナザー・ヒルに集まった登場人物たちがしだいに不安をつのらせ、焦燥にかられていく流れは、けっこうぞくぞくして楽しかったですね。
私はこういう、登場人物たちがああだ、こうだ言い合って、お茶を飲んだり、お酒を酌み交わしたりそういう雰囲気のようなものがとても好きな気がします。

なので、多少わからないことや説明のつかないことがあっても、目をつぶってしまいます。きっとこれはこうなんだろう、と自分の好みの方向で勝手に解釈、納得してしまう感じです。


博士の正体がわかったときには、おおそうか!って感じでした。なるほどね〜 予想はしてなかったけど、でもそうきたかと嬉しかったです。

次々、奇妙なことに巻き込まれていくジュン、彼の後半の冒険(?)は、けっこうドキドキもんでした。死者の通る丘、とかなんとか。過去と現在と異質な世界の時間とがいっしょくたになってしまった世界も、まるで多元宇宙ものみたいで〜
けっこう好きですねぇ、こういうの。

アナザー・ヒルケルト的な丘を象徴するもののようにも思えるし、伝説の島アヴァロンを思い出す部分もある。
おまけに日本的な、八た烏なんてものも出てきたりして。これはどういう結末になだれ込むんだろうと、すっごい期待して読み進めました。

なぁんか、最後はあれ?って感じで終わってしまいましたね。面白くないことはないけど、あれよあれよというまに終わってしまった、そういう感じ。

ラストはちょっとそっけないというか、盛り上がりにかけたというか…なんですが、でもそれまでの話が面白かったから、私はそれだけでもう許せちゃいますねぇ…!


本の装丁もすばらしかったです。うすい不透明カバーをはがすとあらわれてくる世界。まさに、アナザー・ヒル。見開きの窓の光景も何とも素晴らしい! これだけで話がまたひとつできてしまいそうな、雰囲気のある絵です。

ネクロポリス」というタイトルにこめられた意味も…。そうだったのよねえ!という感想でした。

またまた楽しませてくれてありがとう!恩田さん!!と私は言いたいです。

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まゆ > 恩田さんは丁寧に説明して、物語世界に読者をいざなうタイプではないです。こちらはいきなり放り込まれて、「ここはどこ?」状態(笑)でも、いつのまにか世界のとりこになっちゃうんですよ。この話もそうでした。こういう世界を構築してしまうところがすごいですね。恩田さんのイマジネーションの凄まじさに圧倒されつつ、堪能しました。「ガッチ」は「くがたち(すいません、漢字忘れました・・・)」のことだと思いますよ。 (2007/04/27 22:26)
北原杏子 > まゆさん、あ!そうでしたっけ? 読了後、時間が経ってるのと頭が馬鹿なせいで、すっかり忘れていましたよ。教えてくださってありがとうございます。恩田さんのなかにはいっぱい引き出しがあるんでしょうねぇ!イマジネーション凄いです!! (2007/04/28 13:17)