「黒い画集」松本清張


黒い画集 (新潮文庫)

黒い画集 (新潮文庫)

清張は初めて読んだんですが、なかなか面白かったです。推理小説としてもだけど、当時の世相、風俗がわかって…
昭和35年当時の日本が垣間見える〜そんな感じ。
悪が必ずしも暴かれるという感じじゃない、てのが印象に強いです。まさに黒い、です。


とくに一編目の「遭難」の主人公がふてぶてしくって。してやったりという感じ。社会の暗部を描いているようで、その毒がゆっくりと体に回ってきそうな、そんな感想をもちました。

全部で7編収録されてます。

ロアルド・ダールの「おとなしい兇器」を読んで書かれたという経緯のある「凶器」。これはダールのと比べて、よりリアルで、また陰湿であり、何かが絡みつくような感触がありました。
凶器になったものは、もちろんダールのといっしょ、ですが… 先にダールを読んでいたので、清張のほうを読んでる途中で、あ!あれだ!!と気付いてしまいました。
まさに、平べったい丸太ン棒です。私はああいうものは実は全然、知らなかったのですが… あの当時の農村では、ポピュラーなものだったのかもしれませんね。


ほか、上司に自分の浮気相手を寝取られ、出世のためにじっと耐えたあげく結局は地方に飛ばされてしまった男の話、「寒流」にも、うつうつとした、うら寂しさがあり、何とか復讐を成し遂げようとする主人公の男に同情すら感じてしまうほどでした。それだけに結末にはちょっと胸がすく思いがしました。

老いた身で若い女に入れ込んでしまい、長年、倹約に倹約をかさねて守ってきた雑貨店を失い、次第に追い詰められていく主人公。だまされていることがあきらかなのに、それでも女を信じることをやめず(しがみついて)、やがて終の棲家となる坂の上の家を借りることに…、という「坂道の家」も空恐ろしいものがありました。