「少女七竈と七人の可愛そうな大人」桜庭一樹

少女七竈と七人の可愛そうな大人

少女七竈と七人の可愛そうな大人

これは表紙からしラノベふう、という感じなのですが、中みて最初の一文を読んだとき、ぎょっとしてしまいました。
「辻斬りのように×遊びをしたい」ですもん。

おまけに帯には「母がいんらんだと娘は美しく生まれる」だものね。「男たちなど滅びてしまえ。吹け、滅びの風!」と大書きされた文章も印象的。
これの前に読んだのが『赤朽葉家の伝説』だったからなおのこと。インパクトありすぎです。
どっちかっていうと、『少女には向かない職業』の側に立つ作品なのかな、と思った私です。


北海道旭川を舞台にした作品。七竈の母である、川村優奈の語りから物語は始まります。
平凡な容姿をした「わたし」は、ある日突然、ある衝動に動かされます。「白っぽい丸」だった自分を変えるために、必要だったものとは?

地元の小学校に採用された「わたし」に、職員室の隣の席に座っていた教師、田中教諭が言うのです。
「七竈の匂いが」彼女からしたと。さらに、

「七竈は燃えづらく、七回も竈に入れても、燃えのこることがあるという」、そうやって「竈の中で七日間燃えつづけて、よい炭になる」

と、こう言うのでした。その言葉から、「わたし」はあることを実行することを思いついた・・・
七竈が七回燃えるように、自分も男たちと・・・・と。


その相手のひとりと彼女とのあいだに生まれたのが、主人公の川村七竈という、ちょっと風変わりな子どもでした。
そうして、語り手である川村優奈は突然、語り手の舞台をおり、娘七竈に譲りわたしてしまいます。

17歳になった七竈の視点から、話はつづきます。その少女時代、好きな鉄道の話や、隣家の七竈とよく風貌の似た少年、桂雪風の話やら。その会話がなんともまあ、変わっていて、じつに面白かったです。なにせ、「かんばせ」ですもんね〜これはちょっと笑いました。

ふたりの共通の趣味が鉄道で、七竈の自宅の居間には鉄道模型がある。そこで雪風とふたりの世界を作ってしまっている。まるで双子のように…。
二人の間には誰も入り込めない・・・はずだったけれど、ある時、後輩の少女が接近してくる。最初はわずらわしそうにしていた七竈だったけれど、後半にいくと後輩の存在もだんだん受け入れられていく。

高校生であるからには、さまざまな悩みがあるでしょう。恋に、受験に、エトセトラ…


一見、複雑な人間関係に、うっと偏見もってしまいそうですが、これはちょっと毛色のかわった青春小説だったのだと思います。

途中、はさまれた七竈と祖父の家で飼われている犬(もと警察犬)視点で書かれた章などはけっこう味があって、好きです。その犬だけが毎日、目撃していたことをとっても、すごく重要人物(犬だけど)だったと思います。

隣家の桂家にもいろいろ問題があって、雪風の母多岐の目から見た章は、何か身につまされる心地でした。
対して、七竈の母、優奈にはちょっと勝手なところがあるなあ、と思ってみてました。

まぁ最後はいちおう丸く(?)収まったようなので、よかったですけど。
最後の、雪風と七竈がたがいに名前を呼び合う場面が心にのこっています。精神の双子状態だった、二人がはじめてふたつにわかれていくシーンですからね。

こうして、少年は大人になっていき、少女は自分の道を歩みだしていく、のですねぇ〜
しみじみとよかったです。

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ときわ姫 > 私はこれを誰か舞台発声のようにして朗読してくれないかなあと思いました。黙読するより「聞きたい文章」で、不思議な雰囲気を感じました。 (2007/04/30 09:27)
北原杏子 > ときわ姫さん、文章が雰囲気があっていいですよね! 舞台もいいかも〜  (2007/05/01 23:29)