「ミミズクと夜の王」紅玉いづき

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

第13回電撃小説大賞受賞作品です。電撃文庫はふだんあまり読まないレーベルなんですが、これはちょっと電撃文庫のイメージからはかけ離れている気がしました。
悪い意味じゃなく、いい意味としてです。
最初、この作品のことを全然知らなくって、所属してるSNSからの情報で初めて知った具合でした。
それによると、よいらしい。泣けるらしいと・・・
帯にも、有川浩さんのコメントで、「白状します。泣きました」との言葉が載ってます。
別に、そういうことにつられたわけじゃないけど、みんなが絶賛しているので読んでみました。

結論からいえば、私は泣けませんでした。けれど、話は非常にストレートで、奇をてらったものは何もなく、だからこそ普遍的な愛とか友情とか、そういうものが描かれてて、心に直球でくる。だから、泣けるという人が出てくるのでしょう。もしも、心と頭をやわらかにして、物語そのものを受け入れることができたなら、この本はその人にとってなくてはならぬ存在になっていくでしょう。


「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」
死にたがりやのミミズクと、人間嫌いの夜の王の物語。
ミミズクの生い立ちを知れば、愕然とし、涙もでようし、夜の王の正体を知れば、彼がどのようにして人間嫌いに至ったか、その経緯に心がひきしまる思いがします。

個人的には、最初の、魔物の森の描写、夜の王の描写がまた印象的でした。魔物のクロちゃん(ミミズク命名)も心憎く、私はけっこうお気に入りでした。

舞台が魔物の森から、人間の王国へと移行したとたん、何だかどこかで見たような設定になってきてしまって。それまでは非凡なものを感じさせてくれていただけに、ここへきてちょっとトーンダウンしてしまった感じでした。このあたりが私が泣くまでに至らなかった要因があるような気もします。

足の悪い人間の少年クローディアスのエピソードはよかったです。あのシーンはちょっと感動ものではありました。お約束、なのかもしれませんけど。

最後、魔王フクロウとミミズクの再会も感動的です。私も涙こそあふれませんでしたけど、心のなかがほんのり温もってくるようでした。
泣けるかどうかはわかりませんが、ごくごくまっとうな「いい話」です。心が疲れてるときとかに読んだら、もっと効くかもしれません。