「銀色の愛ふたたび」

銀色の愛ふたたび (ハヤカワ文庫SF)

銀色の愛ふたたび (ハヤカワ文庫SF)


さて続編です。
これは、前作とは全く違う味わいでした。前作がロボットと少女との甘いラブストーリーだったのに対し、今作は、よりSF的な設定に支えられた、リアルなストーリーでした。
何より、この作品に登場する、新ヒロイン、ローレンは冷めています。ジェーンのように夢見がちで、現実を知らない、幻想的な女性とちがって、このローレンは幼い頃から貧困と孤独のうちに生きてぬいてきた少女。一筋縄じゃあいきません。


甘いロマンスなど、ローレンとは無縁のもの。自身も言い切っています。ジェーンと似ているところはひとつをのぞいて、これっぽっちもない、と。
そのひとつとは・・・彼女らの唯一の共通項、ともにロボットのシルヴァーのことを好きだということだった、と。

偶然、拾ったジェーンの手記(アングラー出版で、人知れず出版されていた)を読んで、ローレンは一字一句記憶してしまうほど何度も読みこんでいます。
それは、ロマンスなど自分の現実の上ではありえないけれど、物語のなかに描かれたシルヴァーには恋をしてしまったということではないでしょうか。

そこのところは、実際に、作品を読んだ私たち読者にもいえることかもしれません。一度でも、ジェーンの本を読んだ女性なら、シルヴァーの魅力に惹かれないはずはない、という・・・
ローレンは、人工の生命体であるシルヴァーのことを、どんなふうに喋って、どんな目で微笑むのか、そのいちいちを想像したに違いありません。
それは、人間とはどういう違いがあるのか、考えたでしょうね。

同じく、10代の少女であるローレンの実際的な生活には、そんなものの入り込む余地はなかったでしょうが。
彼女の母親は、赤ん坊の頃、他人にローレンをおしつけるような人間で、飲酒、ドラッグ、異性関係すべてにおいてもめごとを引き起こすような存在だったという。
ローレンは結局、掘っ立て小屋のようなところで生活をし、貧困と孤独をともにし、生きてきたわけです。
そんなとき、偶然、ジェーンの物語を手にした。それはローレンにとってはバイブルのようなものだったでしょう。


そんなローレンが17歳になったとき、おどろくべきニュースが流れます。META社が人間そっくりのロボットを発売するという。それを知ったローレンは即座にすべてのものをなげうって、発表会場のあるシティへいくのですが。

そこで、彼女が目にしたロボットは・・・かつてのエレクトロニック・メタルズ社が試作したロボットたちのさらに上をいく、進化されたものだったのです・・・


しかし、そこにシルヴァーそっくりのロボットがいた。名前は、ヴァーリス。銀色(シルヴァー)のヴァーリス。
ゴールド(金)、コッパー(銅)、アステリオン(アステロイドから採取した金属)、そしてシルヴァー(銀)。
男女それぞれ一体ずつのロボットたちは、まともに見たら目がくらんでしまうほどの完璧さをもっており、人間以上に美しく、完結された存在でした。


発表会場で。シルヴァーの男性形ロボットを、ローレンはそれと知らず、熱いまなざしで見つめます。
彼は、〈彼〉なのではないだろうか、との疑いをもって・・・ かつてのシルヴァーはもはやこの世には存在しないはず、だけれど・・・という葛藤。


その後、実際にローレンと出会い、会話をかわすようになったシルヴァー(ヴァーリス)は、全く違っていた。見かけ上はいっしょのようでも、その中身は…
ヴァーリスはローレンを愛し、ローレンも彼のことを愛しながらも、その底では自分はジェーンの代わりなのでは、という疑いを消すことができない。


驚くべくことに、そんなローレンがジェーンに会う機会を得るのですが、それはローレンにとっても読者にとっても痛い場面でした。信じていながらも、本物のジェーンが出てきてしまうことの怖さ。
そこで、彼は彼女と再会し、愛が再燃し、結局のところ自分(ローレン)は見捨てられ、省みられることなく忘れられてしまうのだと。


そんなローレンの心の葛藤もですが、この作品では、前作よりSF的発想が色濃くなっています。
ここに、人間対ロボット、という構図がでてくる。
自分たちロボットよりも、性能的に劣る人間を奉じていなければならないという矛盾に気付いたロボットたち。
前作では、ひたすら人間とロボットの恋にスポットが当てられていて、ほかのロボットたちがどうなったか、ということについてはあまり触れられていなかったようですが、ここでは説明が加えられています。
さらには、作品的世界についてもより詳細が付け加えられていて、全体像がやっと見えてきたという感じでした。

それによると、ロボットの性能のよさによって、人間の労働者が職を奪われるんじゃないかと、暴動にまでいたったようです。
それによって、新しく発表されたロボットは、しいていえば観賞用で、人をたのしませる芸(とセックス)を持ち合わせてはいるけれど・・・・っていう感じ。

発表会場での、ロボットたちのデモンストレーションを見て、魅了されない人間はないだろうって、ほど美しく完璧なロボットたち。

けれど、ぼけーっと口をあけて、見とれてたらどんなことが起こるかわからないもんです。
後半ははっきり言って、驚きっぱなしでした。
ここにちょこっとでも書けないほど。えー!!そんなことが!!の連続でした。

あとがきに、これを前作終了後、直後に発表されていたら、熱烈ファンが何をいうかわからない、って書いてありましたけど、さもありなん〜
ここまで徹底的にやってしまって・・・よかったのか正直わかりません。

そして前作よりも色濃く出ていたのが、母親との関係。
ジェーンとデーメータ、ローレンとその母親など。強烈な個性をもった偉大な母親をもってしまった者の葛藤みたいなところとか・・・これもあまり書くとネタばれになってしまうので、これ以上は書きません。

最後の最後で、ちらっとでてきたあれ。おおっ!と心で喝采してしまった私でした。ほんとにさりげなく書いてあるんで、見落としてしまいそうになりましたが。やったね!という感じでした。

結局、この続編はあってよかったのかどうかいうと、正直わかりませんけど。でも読んでよかったとはいえます。
最後が何となく中途半端に終わってしまったようにも感じたのですが、もしかしてまだ続ける気があるのかしらん? などと、余計な気をまわしてしまいました。でももし続編がまた出たら、読みたいですね。結局のところ、シルヴァーファンですから。