「サイン会はいかが?」大崎梢


やはり、私は前回の出張編のような話よりも、成風堂を舞台にしたちょっと不思議な本屋ミステリ、というのが好きみたいでした。
3作目は素直に楽しめました。最初から最後まで・・・
密度の濃い短編集だったと思います。
以下個別の感想を簡単に・・・

◆取り寄せトラップ

覚えのない取り寄せ書籍、その書名にこめられた謎。
その真相には驚きましたが、それにしてもこんなことのために使われてしまった本屋さんは気の毒です。
最後の取り寄せに関するエピソードはなるほどなぁ、そういうこともあるなあ、と思いました。

◆君と語る永遠

これは面白かった。小学生が登場する話なので、より身近に感じられたような気がしました。
今まで一回も本屋さんに行ったことがなかったヒロキくんが、社会科見学がきっかけとなって本屋に興味をもち、あれやこれやと聞きまわる姿はちょっといいなぁって思いました。
とくに、本屋さんにおいてある道具やなんかの名称にこだわる気持ち。あとで、なぜなのかってことがわかるんですけど。
ちょっとしんみりきましたね。
引き出しはストッカー、そのなかにある本は、本ではなく在庫。そう、そうなんですよね。本屋さん好きにとっては。
なんて素敵。ヒロキくんの気持ちが直に伝わってくる感じでした。
きっと将来、ヒロキくんはいい書店員さんになるだろうなぁ、お父さんのあとを追って。

◆バイト金森くんの告白

これも面白かった。バイトの金森くんの恋の告白からはじまって・・・成風堂で出会った少女に恋をして、その恋が破れたと思い込んだ金森くんはバイトを始めるのですが。
付録つき雑誌の発売に絡んだミステリー。なるほど!って感じだった。その真相は。
しっかし、雑誌の付録に関して、あんなに苦労があるとは思いもしなかったですねぇ。種類も様々なんですね。私はあまり買ったことがないのでわかりませんが、ファッション誌の付録ってすごいんだぁ、と別なことに注意がいきました。仕分けもほんとに大変そう。あんな苦労があるとはね。


◆サイン会はいかが?

表題作だけあって、力が入ってました。サイン会についても、勉強になったかも。
都会とちがって、田舎の本屋にはなかなかこないけど。あったらあったで、大変ね。大規模書店とちがって、中小規模の店だと勝手が違うんだ、って思ったり。(大きな書店だとサイン会の担当があって、それ以外の人はタッチできないから、作家の人と接触する機会もないけど、小規模書店の場合は全員一丸となって取り組まなきゃならないから、それはもう濃ゆくタッチできるという…杏子さんたちはラッキーだったのね)

謎の人物レッドリーフを追って、サイン会の準備の傍ら、そちらにも対応しなきゃならない杏子、多絵ら… 作家本人が登場したり、その思い出を描いた本はけっこうおもしろそうだなって思ったり。
レッドリーフの暗号は本のタイトルに絡んだものだったけど、へぇ!って感じ。全く予想もつかない。
そうでもしなきゃ治まらなかった彼の気持ちを考えると、作家という公の立場になってしまった人の、物を書く責任っていうのはあるなぁ、と思った。
この二人のその後の仲が修復していればいいけど・・・

それにしてもサイン会、私は全くの未経験。一度は参加してみたいものだけど、田舎にいたら到底、ムリ。
学生時代、たまたま寄った本屋さんで、大山信代さんを見かけ、これからサイン会なんだってことを知ったことがあったけど、その当時はシャイだった私… もう中学生なのに、ドラえもんの本を買うのは何だか恥ずかしい、という気がしたので後ろ髪ひかれつつ、その場を立ち去ってしまったのでした。今だったら絶対、参加!なのになあ(苦笑)


◆ヤギさんの忘れもの

これはほんとにほのぼの系でした。目立たないけど、けっこう好きかも。
常連のお客さんと書店員さんとの交流、いいなあってちょっと思った。自分の場合は、ただ本を買うだけの場なのに。
ここまで心をかわしあい、いなくなったあとまで何かが残っているような、そんな交流。ちょっといいですね。
「お手紙はお手紙の場所に」と、このお客さんの大事なものをある場所に隠してしまった子の思いもまたいいですね。
なんてかわいい、子どもらしい発想なんだと思いました。


こんなふうに、書店という場を通じて、人と人がつながりあい、通じ合うような、そんなきっかけとなる場所でもある本屋さんに行ってみたいものです。本を愛する杏子さんのような書店員さんが、全国の書店にはいるんでしょうね。
いて欲しい、って思います。たんに本という商品を取り扱う、店員さんじゃなくって。
本って普通の商品と違うから。人の心をあつかったものでもあるから。その本を売り買いする場所、書店は重要な場所ですよね。
基本的には、人と本を結びつける場所ですが、それは同時に人と人を結びつける場所でもあるんだなぁ、と。
今回の話を読んでて痛切に思いました。普段は意識しないで行ってますが、理想としては、そういうことをわかった書店員さんにいて欲しいんですよね。


本屋万歳! 書店員さん頑張って!〜な一冊でした。続編、また出るといいな。あと正風堂通信、図書館本だったけどちゃんとついていてよかった。手書きの新聞、味がありますね!
それによると、大崎さんの今後の予定も書かれていたので、それもまた楽しみです。二冊あって、どちらも小学生の男の子と女の子が主人公の話らしいですね。新シリーズも創元社で開幕するみたいだし。今後も注目の作家さんですね。期待して待ってようと思います。

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ときわ姫 > 私もこの3冊目が一番良かったと思います。特に「君と語る永遠」は、読んでいる途中でどういうオチか予想できたのに、やっぱり感動しました。 (2007/08/01 15:35)
北原杏子 > そうですねえ、これがいちばん面白かったです。「君と語る永遠」よかったですよね!同じく感動でした〜 (2007/08/10 01:50)