「黒猫遁走曲」服部まゆみ

これは、猫を愛する人ならではの作品では?と思いました。
突然、いなくなってしまった愛猫メロウを探して、昼となく夜となく街を放浪する、主人公森本翠の行為を笑うことは、私にはできませんでした。


何より、理解できたから。
たんなるペットの猫だけど、それは飼い主にとってはそれは自分の子どもといってもいいほど、大事な存在なんです。

どんなに人に笑われても、指さされても、気にならない。
愛するメロウをこの腕に抱くまでは、決して諦めない。
その深い思い・・・

そんな翠の視点で描かれるパートに絡めるようにはさまれるパート。
スターを夢見る隣人の殺人事件。交互に語られるのをみていると、早く早く!すぐそこなのに、とけっこう手に汗握りました。

そして最後の大どんでん返し。
翠と同じく、いいえそれ以上をいく、町の嫌われ者?猫屋敷の住人、有馬氏のパート。この人物は最初から胡散臭いおじさんだったけど、最後のこれで許した。やってくれた、という感じでした。

全く「僕の愛しいしと」になってしまって・・・まさかこれで、おさまってしまうのかな、これでいいのかな。という気はしたけど。

滑稽だけれど、当人たちは必死で、その必死さがまた笑いをさそう、という黒猫遁走曲、ミャア、ミャアという猫の鳴き声をお供に読みたい。

映像が目に浮かんでくる感じの軽快な文章で、自分だけの想像ですが、萩尾望都の絵を勝手にイメージして読んでました。とくに、殺人事件を起こした鳴海昭平。だんだんおかしくなっていって、ついには発狂か、と思われるそのシーンでは、まさに萩尾さんの絵がくっきりと浮かんできました。
魔女!魔女の使い魔だ、俺は騙された!と、叫ぶシーン。
舞台のうえでの主役を夢見た男の、人生という舞台を降りた瞬間の叫びでした。

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Tetchy > この本もまだ手に入るのですね!?
『時のアラベスク』に比べるとずい分砕けた文体だったので読中、何度も同じ作者の作品かしらと思った記憶があります。 (2007/08/01 07:40)
北原杏子 > Tetchy さん、この本もですが、文庫本4冊をヤフオクで入手しました。だからこの本は普通の本屋じゃ売ってないと思います。っていうか、服部まゆみさんの本自体、新刊書店ではお目にかかったことがありませんね。
ほんとこちらの作品は、他の作品とのギャップが凄くって。でも最後まで楽しめました。わりと良かったです。 (2007/08/01 14:40)