「ラ・ロンド」服部まゆみ

ラ・ロンド―恋愛小説

ラ・ロンド―恋愛小説


舞台女優と魅かれあう青年、少女に翻弄される謹厳な哲学教授らが織り成す愛の輪舞。ふるえながら愛の迷宮をさまよい、芸術に翻弄される男と女を描く連作集。「父のお気に入り」「猫の宇宙」「夜の歩み」を収録。

これはまた前に読んだものとは、全くべつな作風ですね。
三つの話が載っている連作です。表面上は関係ないようでしたが、微妙に重なっているのに後になって気付いて、おおっ!と思った私です。


舞台女優の大庭妙子、その恋人田中孝。美術に秀でた弟をもつ、哲学教授の兄。その姪っこの少女。
さまざまな人間同士の折り合いが描かれています。
ともに、演劇、美術、哲学と、分野は違っても芸術の世界にとらわれた男女です。常識からいったら、おかしなこともこういう世界ではよしとされてしまう。

「父のお気に入り」では、同級生の首筋だけに惹かれ、やってはならぬことをしてしまった孝。
「猫の宇宙」では、芸術というものを重きにみて、理不尽なことを平気でやってのけてしまう少女、藍、そしてその叔父の才能ある弟、克己に対する醜い嫉妬など…
「夜の歩み」では、再び登場の孝と妙子。彼らの目から見た、少女藍の身勝手さ、未熟さなどなど。

解決のつかない問題に鬱々とする人間たちが、まさにロンドのようになって、回りまわっていく。
この作品では圧倒されたという言葉よりも、静かに感動が巡りめぐってきた、という感じで、魅了されました。

最後はいちおう穏やかな結末をむかえたようで、その実・・・というようなことがあって。闇のなかから、そっと光のさす方向を眺めている、そんな印象がありました。
「父のお気に入り」で、いわば恋人を裏切ったようなかたちになった孝、その後そのことには何も触れていないと思ったら・・・
こんなところで報復されて・・・?・・・というわけではないのでしょうが。そうとも見れますよね。

心地よい光と闇。服部まゆみさんの書かれる作品には、そういう世界が多く描かれているのでしょうか。これから、服部さんの作品をもっともっと読んでいきたいと思いました。