「九月の恋と出会うまで」松尾由美

九月の恋と出会うまで

九月の恋と出会うまで

この間、実家に帰省したときに本屋で目にして、何となく気になっていた本です。この作家さんは全然読んだことがなく、名前すらうろ覚えだったのですが、運よく図書館で見つけたのでどういうものだろうかと、試しに読んでみることにしました。

タイムロマンSF長編というところでしょうか。時と恋を絡めた作品って、好きなんですよね。テーマ的に。とか言いつつ、読んだらこれは思わぬ当たりをひいてしまいました。

(*以下微妙にねたばれ)
どんな内容かというと、偶然引っ越してきたマンションの部屋の、つけていないエアコン用の穴の中から、見知らぬ男の声がする、というのです。そしてそれは未来から聞こえてきた声で、その男の願いを聞いてやることになった志織。
それは隣室の男を一日、尾行してその行動を報告、できれば写真も撮ってほしいという奇妙な依頼でした。そうして、その未来の男とは、これから一年後の隣室の男、平野だったのです。
最初は驚いて、未来からの男の声を信じなかった志織だったけれど、一週間分の新聞の見出しがすべて当たっていたのを目の当たりにして、信じないわけにはいかなくなる。それから隣の部屋の男を尾行する日々を送ることになるのでしたが・・・


設定が、何か突然、部屋の穴から声が聞こえてくる、それが一年後の未来からのもの、ということにいきなりSFの世界に連れていかれてしまったようで、ちょっと驚いたけど、話はまあまあ面白かったです。割とよかったといえるかな。そんなに感動する、というほどのこともなかったけれど。
途中で、クマのぬいぐるみが喋りだす場面が出てくるけど、それがどうして喋りだしたのかその理由を読んで、ええ?と思ってしまった私です。何だか都合のよすぎる小道具、って気もしますけど。でもそれがぱたりと話さなくなる時期がきて・・・・そういうことだったのかとは思いました。


最後、真打?の真一くんが登場!となるかと思いきや・・・・あれれ、またまたそうだったのか、と思ってしまった私です。恋っていっても、そんなにはげしいもんじゃなくって、いつまにか育っていってしまったものという感じです。あわい恋心みたいなもんでしょうか。


未来からの声の主、シラノと、現実にいる平野という男とを、自分なりに合体させて・・・妄想の産物?という気もしないでもないですが。平野さんに私はそれほど魅力を感じなかったので、(っていうか凡庸ですね)主人公がそれほど思いを寄せていた、っていうのがちょっと意外というか、へぇ〜!!ていう感じでした。

なかなか面白く読めたので、またこの人の作品を読んでみたいと思います。