「ずっとお城で暮らしてる」シャーリィ・ジャクスン

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)


「すべての善人に読まれるべき、本の形をした怪物である――桜庭一樹


帯に、銘打たれたこの文句に、なになに…?と思わない人はおそらくないかと思われます。私自身がそうでした。
さらに引き続いて、


「皆が死んだ このお城で、あたしたちはとっても幸せ。」


という文句。

これで止めが打たれた、という感じです。


いったいどんな話なんだろう、と読み始めました。

お城というからには、ちょっと童話のような、フンンタジーのような世界かしら、とも思う向きもあるかもしれません。
お城で暮らしてる、優雅な貴族のお嬢様の話かしら?と…


そんな先入観をもう、バリバリと打ち砕く衝撃が本書にはありました。
この驚きを味わってほしいから、あえてストーリーはここには書きません。
実際に、お読みになっていろいろ感じてほしいのです。

まさに、「本の形をした怪物」であり、明確にこうと、何か形にならぬもの…しいて言えば邪悪さ?
そんなものを描きだした傑作です。


「メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん
 とんでもない 毒入りでしょうと メリキャット」


読後は、あなたもこの歌を口ずさまずにいられなくなる、のかもしれません。(どんなメロディがついているのかは、想像するしかないですが。)


それほどの厚さがないうえ、とても読みやすい文章なのでするっと読んでしまいますが。

ちょっとずつ何かが掛け違っていって、気づいたときには自分も怪物になりはてていた、っていう感じといえばいいのかな。もう、それは状況次第で、どんな怪物にもなってしまいかねない、人間の怖さ(弱さ)としかいいようがないですね。
どんな怖がらせのホラーですら、とうてい太刀打ちできないほどの恐怖であるだろうと思います。

残された少女たちは今でもお城で暮らしているんでしょうか。表紙の絵に描かれているように、まるで忘れさられた妖精たちのようにも思えてしまいます。

人びとの、彼女らに対する心理もそれに近いような気がしました。たたりがないよう、奉っておくというふうな感じが。


とてもおもしろい作家だと思ったので、またいつか何か読んでみたいと思います。