「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上・下」村上春樹

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)


村上春樹の作品を読むのは、これで二度目です。最初は『海辺のカフカ』。これはけっこういい話でした。旅心も刺激されたりしてね…

さて、こちら「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」。

高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、[世界の終り]」と、老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する[ハードボイルド・ワンダーランド]。
この二つの世界が交互に描かれた、不思議な物語でした。

[世界の終り]の幻想的でどこか死の匂いを感じさせる世界と、[ハードボイルド・ワンダーランド]の現実をベースにした冒険の世界。まるきり違うイメージだけれど、それが交互に語らえることでメリハリがついたようでよかったように思いました。

どちらかというと、[ハードボイルド・・・]のほうが、現実生活に近いせいか、読みやすかったのですが。
話が進むうちに、[世界の終り]のほうも雰囲気がよさげな感じになってきてよかったです。一角獣とかファンタジーっぽい要素もでてきて、興味深く読めました。
〈僕〉が街に入ってくる際、自分の影と引き離されてしまうんだけど、それ以来自分の影に会いにいってるシーンがあったり、影は引き離された瞬間から本人とは別個のものになってしまったようで、そこがなんか面白かったですね。とくに、だんだん影が元気をなくして、ろくに食事もとらないとか… そんなシーンが後半にあったけど、あれはちょっと違和感がありました。影のくせに物を食べるのか!いったい何を食べてたんだろう?って感じで。
まあそれはいいんですけど。

[ハードボイルド・・・]のほうは、やっぽりやみくろの存在が大きかった。ちょっと関係ないかもしれないけど、山田ミネコの漫画に黒闇さまというのが出てくる作品があったんですが、これを思い出したりしていました。
おそらく漫画とは何も関係ないだろうとは思うけれど。思いついたので書いておきます。
イメージだと、のっぺりした真っ黒い生き物という印象をうけました。その実体は最後まで明らかにされなかったけれど、〈私)がピンクの服を着た彼女と逃亡中にトンネルのなかでやみくろと遭遇した場面。ぞくぞくするほど怖くて、そのものは見られないけれど、でも見ちゃったらおしまいだ、みたいな恐怖を感じました。

このピンクの服を着た彼女(老科学者の娘)っていうのは、ちょっと太めで決して美人てわけじゃない(ごめんなさい)と思うんだけど、印象はものすごく強かったです。もうひとり、図書館勤務の娘が出てくるんですが、そちらはごくごく常識的なまっとうな感じ。ピンクの服に固執するのも何だかだし、やたらと〈私〉に対してあまりに個人的なことを聞きすぎるような気がしたり。コインランドリーで、この娘の服を乾燥してやる場面なんか、〈私)が気の毒だったな。ピンクの女物の服ばかり、ごそっと持ち出していく、あの何ともいえない感じが。


この娘のおじいさんの科学者を救出しにいく場面などは、本当によくできた冒険物のようで、地底の湖を泳いで渡ったり、〈私)が油断していて、やみくろに取り込まれ、その場に眠り込んでしまいそうになったり、ハラハラできて楽しかったですね。
ここで、やっとクリップの意味が判明。ああ〜そういうことだったのね、とくすりとしたおかしさも感じました。このおじいさんっていいキャラしてますねー。
何かとぼけてて。でもちゃんと科学者らしく、いろんなことをわかっているんですね。


あと[世界の終り]で、獣の頭骨から夢を読み解いて…というのはファンタジーっぽくてなかなかよかった。
具体的にどういうふうにやるのかは全く予想もつかないけれど、雰囲気はありました。
それに図書館にいた彼女。
〈僕〉は最終的に、この彼女を選んで街に残る決心をするんだけど。
この彼女がなくした夢を、〈僕)が少しずつ集めて、もう一度よみがえらせようと(?)するところ。
これなんかよかったですね。
この彼女の存在がまた?なのですけども。私は何となくですが、現実世界で死んでしまったか、心をなくしてしまった人が、魂だけの存在でこの街へやってきた、とかそんなふうな解釈をしていたと思います。
だから、〈僕)がもう一度集めようとしているのは、彼女の心だとか。いや違うかもしれませんけどね。

それと、この獣の頭骨ですが、[ハードボイルド]のほうで、〈私)が博士からプレゼントされた獣のレプリカ。それとあたかも連動しているかのように錯覚してしまうシーンがあって。
あ、これってひょっとして?と思ってしまいましたよ。

ストーリーのほうも、二つの世界がだんだん重なっていくようにに感じました。ラストに近くなるにつれて。それでいくと、〈僕〉は〈私〉なのでしょうね。たぶん・・・
そして図書館の彼女は? まさか〈私〉が出会った図書館勤務の女性じゃあないでしょうが。いろいろ勘ぐってしまいます。


とにかく、一回、読んだだけではストーリーを把握するだけでせいいっぱいで、そこから一歩進んだ深い解釈などとても出来ませんでした。今は無理だけど、また何年かしたら再読してみるのもいいかな。解説本を読んだりすることもありかな。先に解答を知ってしまうようでずるっこのような気がしますが。
まぁそこはおいおいと…


村上作品はまだ2作品しか読んだことがないので、今後も読んでいきたいです。数を読むようになったら、この話『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』もより理解されるのかもしれません。それに期待しています。


あと余談ですが、『ダニー・ボーイ』。偶然にして私は知ってました。以前買った、ケルティック・ウーマンのCDに収録されていたんです。とても昔懐かしい気持ちにしてくれる、温かいメロディだったということを付け加えさせていただきます。