「ミューズの寵児」秋月こお★★★★

この巻には久々に得るものがありました。
といっても、タイトルに掲げられている『ミューズの寵児』ではありません。

ニューヨークのカーネギー・ホールでピアノリサイタルを開催することになった天才ピアニスト生島高嶺の招きを受けてやってきた守村悠季と桐ノ院圭…
#圭だけはM響の用事で日本に一時帰国していたので、そこからでしたが。

が、悠季は突然に高嶺からカーネギー・ホールでの競演を持ちかけられて… 高嶺の爆弾発言に頭が沸騰しかけた悠季だったが、しばらくたって冷静さを取り戻してみると、意外にもリラックスしている自分に気づく。あまりのリラックスぶりにかえってどこかに落とし穴があるんじゃないかと、疑っているところへ、恩師の福山氏が登場。
氏との会話から高嶺が悠季とリベンジの《ツィガーヌ》協奏曲競演を企んでいることを知り…天才ホルン吹きの生島空也(ソラくん)との競演もあったりして。やってやるぞ、との意気込みかたく(?)いよいよカーネギー・ホールの幕が開く……


その結果はもちろん大方の予想通りですが…以上が、『ノヴェンバー・ステップス1996』のあらすじ説明です。
もちろんこれもいいけど、こっちのほうが…と思ったのが『それぞれのノヴェンバー・ステップス』です。これは前述のカーネギー・ホールでの演奏とその前後を、生島高嶺のピアノ教師(クラシックを知らない高嶺に片っ端から楽曲を弾いて聴かせた、という意味で)全盲のナイジェル・ネルソンの叙述によって書かれたものです。

7歳の時までは健常だった目が突然、失明して以来30年。ナイジェルにあったものはピアノを弾くという能力だけ。生みの母親に手ほどきをうけ、二人目の母親にピアノ教師をつけてもらい、失明してからは三人目の母親によって連れてこられた教師により、点字楽譜を使っての専門指導を受けた。
そんな彼は演奏家になることを望み、数々のコンクールに出場しタイトルも得て、父親のバックアップでリサイタル活動を始めるも、それは全盲の自分に対する同情と慈善によってなされているものだと悟り、自信も喪失しやがて人前では弾かないようになってしまう。


そんな彼が出会ったのが、チャリティーのみに限って演奏活動を再会した彼が教会で出会ったアニタ
彼女との出会いがやがては生島高嶺との出会いを生み… 自分の才能の限界を悟ってからは、趣味の域のみに限ってピアノを弾きつづけているナイジェル。
そんな彼がカーネギー・ホールでの、高嶺や悠季の演奏を聴きどんな感慨をもったか。そのことについては考えまい、と考えをそらすナイジェルの心の痛み。普段は圭の影に隠れているような印象をうけた悠季が、ひとたび演奏というフィルターをとおすと別人のように変貌する。シャイな外面のうちに秘められた闘争心、プライド、情熱… それらがバイオリンという楽器を手にし、楽曲を奏でたとたん、一気に解き放たれ、高みに向けて昇っていく。それが『表現者』というものなのだ、そうでない自分は無名の聴衆、ただ趣味で弾きつづけているだけの…


ここのところが、私のアンテナにひっかかったのでしょう。長々あらすじを書いてしまいましたが…
自分のなかにあるモノを解き放つための表現の道具。それを極めた悠季や高嶺、圭といった人物の幸運さは痛いほどわかります。
それがどんなにも素晴らしいことか! ナイジェルでなくとも、わかることです。一度、表現という場での試みをなした人間には、ね。


でもまあ考えてみれば、彼はたとえチャリティーと言えど、聴衆に向けて自分の楽曲を奏でているわけで。そこのところは幸運だったのかもしれません。話の最後で、ナイジェルがしたある決意はその延長線上にあるものか、それとも…
日々の生活の糧を得ることはそれは大変なことですし、重要なことでもあるのですが、私は彼に自分のピアノに対する情熱を忘れることなく、持ち続けていて欲しい、そう思わずにいられません。


悠季、高嶺、圭、空也、そしてナイジェル… 音楽に携わる者たちのそれぞれのステップ。着実に一歩ずつすすんでいく彼らの歩みが、幸福なものであることを願わずにはいられません。



話は違いますが、秋月さん市議会議員になられたんですね。すごい!!
家事や育児をしながらの作家業だけでもえらいと思うのに…その上、市議会議員だなんて!!
おそらく想像もできないような大変さでしょうが、
頑張ってください、と心のなかでエールをおくりたい…です。



*本プロ レスより*

ちゃこたろ > 北原さん、こんにちは。。フジミなつかしいので思わずレスしてしまいました。今シリーズは何巻くらい出ているのでしょうか?久しぶりに読みたくなりましたです。秋月さん、市会議員もされているのですね。なんとバイタリティーあふれる!!彼女は火の国の方でしたでしょうか?たつみや章さんでもあることは知っていたのですが。。 (2004/02/09 02:40)
北原杏子 > ちゃこたろさん、フジミ読んでいらっしゃったんですね。いまは第5部の二冊目が出ているところです。通算すれば、24冊か… 長いですね。私も新刊(去年12月の)は未読でした。早く読まねば〜!! (2004/02/09 23:52)