{book]「聖女の遺骨求む 修道士カドフェルシリーズ1」エリス・ピーターズ★★★★

聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1) (光文社文庫)

聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1) (光文社文庫)

今度は打って変わって(?)英国ミステリを読んでみました。
以前、古本で1〜8巻(7は欠)をセットで買って以来、ずっと積読したまま眠っていたものを、先日ふいに手にとってぱらりとページをめくってみたのです。
本自体は埃をかぶっていましたが、その内容は今読んでも、全く色あせない魅力にあふれていました。
もっと早くに手を出していれば…と悔やんだほどです。
何しろ、このシリーズは本編20冊、短編集1冊あるということですから。おまけに、私が今回読んだ現代教養文庫は廃刊しており、シリーズを全巻揃えるのは至難のわざ…なのです。
今年に入って、光文社文庫から復刊がはたされた、ということなのですが、それもようやく4巻が出たばかりのようで、なかなか刊行が進まないようです。全部読むことははたして出来るのでしょうか…


それはともかく。本巻の感想を…


最初の一文から惹きこまれました。これは読める!という印象。それは最後までつづき、裏切ることはありませんでした。


舞台は十二世紀イングランド。シュールズベリ修道院に属する修道士カドフェルが主人公です。
このカドフェルという人物が面白い。経歴は様々。かつては十字軍に参加し、イスラム教徒と戦い、沿岸警備の船長として船に乗り込み、十年間もイスラム教徒の海賊船と戦ったという華々しい経歴をもつ人物。
その彼がなぜ修道院に入ったかと思えば、それは「タイミングのよい引退」であるといい、現在の彼は修道院の薬草園に自分の居場所を見出している、そんな人物。
そんな経歴があってこそ、人を見る目をもち、それがひいてはこの巻にあるような謎の事件を解く結果ともなったのでしょう。


この巻のメインの舞台、ウェールズという土地にも魅力を感じました。緑豊かな峰、川辺に沿った湿地の牧野、細長い畑が作られた傾斜地の森、花盛りの果樹園…
森のなかにひらかれた場所に在る、白くかがやく石造りの教会の建物。
風景は見事だけれども、そこに作られた畑を耕す者の苦労は並大抵ではない、とかいう文があったのですが、そこで私はこの夏に訪れた北海道の一地方、美瑛を思い出しました。
この町も丘の景色が見事、ということでその景色を保持するために丘をくずすこともせず、大変な苦労をして農業を営まれているということでした。
似ている部分があるのかもしれませんね。


以前、読んだスーザン・クーパーの闇の戦いシリーズ第3巻の『灰色の王』も思い出しました。ウェールズが舞台だったのです。クーパーが描いてみせたのは現代(に近い?)ウェールズだったけれど。雰囲気は同じでした。


グウィセリンに眠る聖女ウィニフレッドの遺骨を求めに、ウェールズへとやってきた修道士たち一行にカドフェルももぐりこんで、その経過を見守ります。野心家の副院長が有力な聖人の遺骨を手に入れて、大修道院守護聖人にまつろうと画策していたのです。反対する村人たち… カドフェルウェールズ出身ということもあって、彼等との通訳にたつうちに彼等に親密さをおぼえていき…反対する村人たちをなんとかなだめて聖女の遺骨を手に入れようと企む副院長ら野心家の面々との仲立ちに立っていくうちに、ついに殺人事件が起こってしまう…犯人は!?という話です。


謎解きの部分はミステリというよりも、人々の心理を深く描いたものと思えました。犯人は後半部分でようやくわかりかけましたが…。意外な人物といえば言えるでしょう。
でも私はミステリというよりも、こうした登場人物の心理をたどったひとつの物語としてより多く楽しんだような気がします。


少なくともまた読んでみたいと思えるほどには、この話を楽しめたと思います。



*本のプロ レス*

ときわ姫 > 最近このシリーズがまた出版され始めたので、誰かが読んでUPしないかなあと待っていました。そうしたらなんと昔の社会思想社版でのUPとは更に嬉しい事。カドフェルさんのファンなんです。これ一番最初は早川から出たんですよ、確か一冊だけ。その後社会思想社なんていうマイナーな所から出て。出版情報もつかめず、長年いつ出るのか待ちつづけました。ほとんど、出版されたらすぐ読んでました。イギリスでは大変人気のあるシリーズなので、テレビドラマも制作されているんですよ。以前NHKの衛星放送で何作か放映されました。うちは衛星契約をしてないので、友達に頼んでビデオにとってもらいました。すごく良い出来でしたよ。あれなら満足です。
エリス・ピーターズさんはものすごくこの作品に思い入れがあって、自分の死後絶対に別の人がこの話の続きや、サイドストーリーを書かないようにと遺言をしたそうです。シリーズの中でゆっくりと話が流れて、作者はこれで終りとは明言しなかったのですが、「これで終りかなあ」と納得できる最後の一冊でした。直後に亡くなられたので、自分で分かっていたのかしらと思いました。かなりショックを受けました。 (2003/10/08 14:56)
あさこ > ずっと読みたかったけど、絶版で手に入らなくて諦めていたら最近、光文社文庫で出版されましたね!シリーズが20編も出あるなんてはじめて知りました。無事出版されてほしいですねぇ。全部そろえて読みたいです。 (2003/10/09 00:19)
北原杏子 > ときわ姫さんもこの作品がお好きだと言う事を知って、嬉しく思っています。本当に、面白いという本のすべてはお読みになっているような気すらしてきます(^^)。
私もカドフェルさん、好印象です。これから巻が進むごとに、過去が明らかになっていくのでしょうか。楽しみです。
昔の教養文庫版もよいのですが、今の版も装丁が素敵ですね。ハーブ園の意匠なのかな? どうしても手に入らない巻は新しい方で買ってしまおうかな、と思ってます。それにしても最初は早川から出ていたとは、知りませんでした。早川も結構、品切れのものが多いのでどうだったかわかりませんが、まだそっちの方が手に入りやすかったのかもしれませんね。テレビドラマもあるんですってね。全作品が読めたら、いつか見てみたい気もします。 (2003/10/09 00:20)
北原杏子 > あさこさん、ニアミスでしたm(__)m
光文社のものも装丁など素敵なので、こちらで揃えるのもよいかも、ですね。とりあえず欠巻のみをこっちで購入しようと思います。それでも相当、ありますが。私もこんなにあるとは、ネットで調べるまで全く知りもしませんでした。
本当に、なるべく速やかに出版されることを祈ります。 (2003/10/09 00:25)
たばぞう > うわ〜、カドフェル〜!。確か1冊くらい、家にあると思いました。でも、気まぐれで買ってみただけで、ずっと寝かせてあります(笑)。みなさんのレスを読んでみると、違う出版社から何度も出されているようで、それってやはり面白いからですよね。BSでのドラマ、きちんと見たことはないのですが、誰かのお宅で画面に流れていたのを見たことがあるような・・・。話したり食べたりするのに夢中で、見ていなかったのですが。良い出来のドラマだなんて、レンタル屋さんにないかしら。見たい。 (2003/10/12 12:21)
北原杏子 > たばぞうさんカドフェルは私も軽い興味で古本を買っておいて今まで積読しておいたんですぅ〜(^^ゞ
それで今回、読んでみたらば、うん、よいかも〜って感じでして、ハマりそうな予感大です。ただいま続刊を収集中です。新しく出るのを待ってられない感じなので。
BSのドラマ、そんなによいものなら一度見てみたい気がもりもりと出てきました(笑)。ほんとレンタル屋さんにあればいいんですけどねー。あるかなあ? (2003/10/13 00:32)