「火の粉」雫井脩介★★★★

火の粉 (幻冬舎スタンダード)

火の粉 (幻冬舎スタンダード)

本プロで話題に上がっていたので、ちょっとした興味で図書館に予約入れて借りてきました。
ニ段組でちょっと厚めだったので、まぁゆっくり読もうやという気持ちで読み始めました。

そしたらもう…止まらなくて。他にもやることあったのに、それをあとまわしにしてでも読み続けたい、という思いが勝ってしまったんです。本当に寝食を忘れて、という感じです。
昨日読み始めてだんだん夢中になっていって、昨夜は途中でやめられなくなるのを遅くなるからと無理して止めて、今日の夕方読書再開… たったいま読み終えて、少しぼおっとしています。


端的に言って… 怖かったです。そして犯人と、彼に騙されていい顔をしている人びと(男陣)に対して腹正しさがあふれてきて止まらなかった。なんてことだろう、いったい世の中にこんなことがあってよいものだろうか、という思い。
のうのうと何食わぬ顔をして生きのびつづけてきた犯人。その異常な心理、言動。恐ろしい、まったく恐ろしいの一言に尽きます。


私は先に本プロで感想を読んでしまっていたので、親切そうな顔をして裏に異常なものを隠した人間として、初めから見てしまっていました。その意味であっと驚くという感じではなかったですが、それだけに怖かったですね。ごく普通の日常に、少しずつ狂気と異質さがするりと滑り込んでくるような。ミステリーというよりもホラーみたい。


それと彼に騙されて云々…というのは、はっきり言って雪見の夫、俊郎です。読みながら何度も何度も、こいつっ!なに言ってるんだ!? なんてことを言うのよっ邪魔しないで!と怒り心頭でした。
結果としてその報いは受けたようですが。この事件をいい経験にいい弁護士に育っていただきたいものですね。(そんなんなるか!?)


彼の父親、事のすべてを招いたともいえる勲に対しても苛立ちを覚えずにはいられません。勲は結局、遅すぎましたね。家族の危機に立ち向かうのが。それであの結末… そこまで追い詰められた犯人との争いでやっと勝利が得られる、と思ったのに。
なにやら完全な勝利ではなかったようで、どうも釈然としないものがありました。全体から見るとあれでよかったのかもしれないけれど。
読み終わって、あれれ…?って感じでした。ちょっと拍子抜け。


だから私の評価は4。本当は5くらい行くかと思っていたのに、ラストで気が変わりました。
前半の老母の介護部分や雪見の子育て問題(虐待とか)部分でも興味をもって読まされていただけに、最後は何だかちょっと肩透かしくらったような気分でした。


でも一度読み出したら止まらない、まさにかっぱえびせんのような味(どなたかが仰っていましたよね?)、わかりました。癖になりそうです(^^;
他にもそんな本がありましたら、教えていただきたいです。



*本のプロ レスより*

さくら > ほんとミステリーよりホラー系でしたよね?怖い〜。俊郎!私も怒りながら読んでいましたよ、全く!自分は何もしないくせに言うことばっかりえらそうで、本質何にも見えてないで浮かれちゃって〜!一番の癌でしたね。 (2003/11/14 09:39)
ありんこ > はじめまして。私も一気読みでした!ラストのバウムクーヘンが強烈な印象です。介護、育児なども扱っていて深いですよね。 (2003/11/14 09:46)
ココ > これは本当に寝食忘れますね。私も夕食後から何時間もぶっ続けで読んでしまいました。真に怖いのは人間でした。。。私にはこの本ほどではないけれど同じ著者の「虚貌」もすごい吸引力ありました。こちらは真相に賛否両論ですが・・・。 (2003/11/14 10:15)
ときわ姫 > 私も本プロの紹介を読んでからこの本を読んだので、犯人の事がわかって読みました。それでネタバレがいやだったかというと、そんなことはなく、こんな言動だけどこの人は実は・・・、とかえって不気味でした。ラストについては私はこれで良かったように思います。「虚貌」のラストがちょっと不満だったので、逆にこれならと満足したのでした。今のところ雫井さんの最高のものだと思いますので、すぐには他の雫井さんのものを読むのはやめた方がいいと思います。井坂幸太郎さんの「ラッシュライフ」などいかがでしょうか。私を含め皆さん高い評価です。 (2003/11/14 16:39)
北原杏子 > なるほどすごい人気ですね。たくさんのレス… あらためてこの作品の人気の高さを感じますね〜

さくらさん、はじめまして。レスありがとうございます。
俊郎には最初から最後まで怒りっぱなしでした。雪見に対する言葉がひどくって… あんなふうに拒絶することないのに、なと読んでいるこっちも悔しかったです。
ミステリーというよりも全くホラーでしたね。謎解きなども全く無かったし。結局あれはどうだったのかな?なんて。あまり真相を詳しく説明されていないので、読み終わってからあれこれ考えてました。やはりそういう謎解きを描くよりも、犯人の人間描写のほうに重きをおいた作品だったのでしょうね。
ありんこさん、はじめまして。レスどうもありがとうございます。バウムクーヘン私も印象深いです。あんなふうにして焼くとは思ってもみなかったし、何より彼の異常性があれによって増したような。おかげで今後バウムクーヘンを食べる時にはこの本を思い出しそうでちょっとやだなー(^^ゞ
ココさん、もう最後のほうは家事もあとまわしになってしまって(^^ゞおかげで昨日の夕食は超手抜きになってしまいましたよ。「虚貌」も面白そうですね、いつか読んでみたいと思います。
ときわ姫さん、ラストは私も悪い印象ではないんですが、あれでいいんだろうな、と思いつつも何だか拍子抜けっていうか、これでよかったのだろうかというか… こんなに異常で異質な事件なのに、このラストだと、ちょっと変わってるけど何だかありきたりの小さな事件のようにされてしまっている感じがして… 結局、世間の人々は事件の真相に永遠に気づかないままなんだろうな、と。まあこれでこの家族はひとつにまとまっただろうし、そういう点では満足しています。
他の作品もそのうち読むだろうと思いますが。やはり、ときわ姫さんおすすめの伊坂幸太郎さん…でしょうか。そちらも楽しみにしてます。 (2003/11/15 00:12)