「マライアおばさん」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ★★★★

マライアおばさん

マライアおばさん

お父さんが行方不明になってからというもの、親戚のマライアおばさんから毎日のように電話がかかってくる。「あんたたちのことが心配でたまらないよ」とさも親切そうに言ってくるマライアおばさんを、ミグは嫌っている。遊びにおいでというおばさんからの誘いを何かと言い訳しながら断ってきたのに、人のいいお母さんのひとことによってイースターの休暇の時についに遊びにいくことになってしまう。

おばさんの住むクランブリーの町についたとたん、おかしなことが次から次へと起こってくる。
元気なのはおばさんたちだけで…子どもはひとりもいないし、男の人はゾンビーのように表情のない顔をしている。おまけに、ミグの兄さんのクリスの部屋には幽霊が出るし。
そして何よりすごいのはマライアおばさん。取り巻きのおばさんたちに君臨する女王のような態度で、ミグのお母さんを召使のようにあれこれとこきつかっている。
ミグはミグで、おばさんたちのお茶の給仕をさせられたり、おしゃべりの相手をさせられている。
あげくの果てには、おばさんに反抗した兄のクリスはとんでもない恐ろしい目に会うことに!

ミグはいやでいやで堪らないおばさんに対抗したくても、大人しい性格のためにクリスのように目に見えて反抗することは怖くてできなかった。
それで鍵つきの秘密の日記帳(これはお父さんがクリスマスに買ってくれたものだった)に起こった出来事を書いていくことで、おばさんに対する反抗心を燃やしていた。

そのミグが綴った文章(日記)で、この作品はできています。
ある力を持ってしまったマライアおばさんという怖い人物によって、町の人々が支配され、それも身体ではなくて、心が支配されるという怖い状況下にあり、ミグはそんな普通の状態ではないクランブリーの町のなかで、何とかしたいと思いつつも圧倒的な存在のマライアおばさんとその配下の人物(13人の町のおばさんたち)には逆らえず、次第に追い詰められていきます。

何にもできないでいたミグと対象的に真っ向からマライアおばさんに反抗した兄のクリスはその態度によってついに、のっぴきならない状況にまで追い込まれてしまうし、唯一の味方と信じていたお母さんもだんだんマライアおばさんの力にあやつられ、ただの召使のようにこきつかわれるだけで、クリスの苦境にも全く気づいていない(気づかされない)という状況。

そんなどうにもならない状況でひとりぽっちになってしまったミグは、自分だけで何とかしようと奮闘します。
マライアおばさんの家の真向かいに住む足の悪い老婦人ミス・フェルプスの助言に助けられながら、正しい道を進んでいこうとするのですが…

手に入れた強大な力を使って人の心を支配して、あやつってしまうマライアおばさんという人物が心底怖かった。
とくにミグがマライアおばさんの手下のおばさんが見張っている孤児院に閉じ込められるシーンがとてつもなく怖かったです。
心をビニール袋のようなものでつつまれて、何も感じないようにされてしまい、自分ではやりたくなことを無理やりさせられてしまうところ。
人をあやつって自分の意のままにしてしまうこと、これほど酷い悪事はないように思えます。
その意味でこの「マライアおばさん」は怖いお話でした。
ファンタジーというよりも人の心の闇を見させられた思いです。

主人公のミグはDWJ作品では珍しいほど大人しい女の子でした。あらすじ紹介には「元気な女の子が〈隠れた悪意〉と戦うファンタジー」とありますが、DWJ作品によく見られるようなはちゃめちゃなほど元気な女の子、というわけでもないようです。あくまでも普通の元気な女の子が、絶対的な悪に対して何とか戦っていこうとするお話。
そんな印象でした。

でも次から次へといろんなことが起こって、息もつかせぬ展開で読者を飽きさせないのはさすがジョーンズさん、って感じでしたね。



*本のプロ レスより*

ときわ姫 > これ図書館に予約中です。来るのがすごく楽しみになりました。ジョーンズさんは、「七人の魔法使い」という本も出てますね。(この名前はどこかで聞いたようなとだいぶ考えて、そうだグインの「七人の魔道師」! )こっちも読みたいと思っています。
ジョーンズの本だと思って借りた、「魔法使いになる14の方法」は14人の人による短編集だったので、ちょっとがっかりして、拾い読みだけしました。ジョーンズのは他で読んだ事のある話だったし。 (2003/12/20 10:35)
あさこ > ダイアナ・ウィン・ジョーンズの本は未読なのですが、前々から読んでみたくて、ちょうど図書館の新刊本のコーナーにあったこの本を借りてきたところです。これから読むのが楽しみです♪ (2003/12/20 23:41)
北原杏子 > ときわ姫さん、私も「七人の魔道師」を連想しました(^^ゞ 読むのが楽しみです。「魔法使いになる14の方法」はいろいろな作家のアンソロジーなんですよね。未読ですが…ジョーンズさんの他にも、プルマンとかあっていずれは読んでみようと思っています。 (2003/12/21 00:09)
北原杏子 > あさこさん、ぜひDWJの魅力にハマってください。まだまだたくさんありますよ〜 「マライアおばさん」が気に入られたら、他のも是非!! (2003/12/21 00:11)
すもも > わたしも図書館に予約中です。「七人の魔法使い」とどちらが早く手に取れるか・・・。どちらにしても読めるのは、来年になりそうです。 (2003/12/21 10:01)
ときわ姫 > 「魔法使いになる14の方法」ですが、一番最初にジョーンズさんを読み、何だーこれ読んだ話だわ、次にプルマンさんを読み、あまりのダークさに愕然でした。そして後2つくらい読んだかな、これってホラーを集めてあるのか?(ジョーンズさんのは違いましたが)と、ホラー苦手の私はそこで止まってしまいました。元々短編が苦手ですし。 (2003/12/21 16:41)
北原杏子 > すももさん、お互い早く読めるといいですね(^_^) 私も「七人の魔法使い」は来年になるでしょう。
ときわ姫さん、そうですかプルマンさんはダークでしたか。以前、「止まらない時計」というのを読んだことがありましたが、これもちょっとダークでしたよ。気味悪〜って感じであまり好きになれませんでした。私も短編よりも長編好きなので、後回しになってしまうかも、ですね。 (2003/12/22 01:02)
すもも > 読んでからと思って、日記を読むのは控えてました。
すばらしい!もう一度、本を読み返したみたいです〜。
ビニール袋みたいなものに包まれるという表現は、ホンとにリアルで怖かったですね。 (2004/01/09 10:43)
北原杏子 > すももさん、読まれて良かったですね。ビニール袋云々の描写は心底怖かったです。洗脳とかいうのはああいう状態なんだろうか、などとちょっと怖くなりました。 (2004/01/10 00:49)