「童話物語 上」向山貴彦★★★★

童話物語〈上〉大きなお話の始まり (幻冬舎文庫)

童話物語〈上〉大きなお話の始まり (幻冬舎文庫)


2004年最初の本はいろいろ考えて、これにしました。文庫化された時からぜったい読むぞ、と気負って買ったのにずっと積読中でした。

ところが読んだら、すぐにハマってしまいました。どうしてこれをもっと早くに読まなかったのだろうと後悔するほどに。
何よりきめ細かく決められた世界設定が素晴らしいの一言につきます。巻頭綴じ込みの地図を見るだけで魅力的なFT世界を彷彿としてしまいますし、世界の時間、距離の設定からはじまって動植物、自然、歴史の細部に至るまで創ってしまうという、まさにトールキンの流れを汲むような、壮大なお話ですね。


冒頭のペチカの悲惨さに、うっとなりました。これでもか、これでもかという… 子猫にえさをやらないで結局、死んでしまうシーンが心に痛かったです。
気にならないわけじゃなくて、それさえ出来ないほど切迫した状況だったんですもんね。これは痛いです。


ペチカが仕事に通っている教会の守頭というのがまた何ともすごい人物。いくら自分がやられたからって、一体そこまでやる?って感じで。すごい執念…

ペチカをいじめるいじめっ子のなかで、ルージャンという男の子が唯一、違っているというふうかな。ほんとは違うのにでも素直になれない。典型的いじめっ子?


ペチカはお母さんを亡くしてから教会に引き取られ、こき使われることになったわけですが、その元がどうだったのか…父親のことには何も触れられていないので、そこらへんが興味あるところ。
途中でひっかかる言葉があったのでなおさらです。


そんな貧しく、絶望的状況のなかで、妖精のフィツというのがペチカのもとにやってくるわけだけれども。フィツとのやりとりによって、だんだんペチカのことがわかってきます。本当の気持ちとか。
それから、絶体絶命の危機を救ってくれた、おばあさん。その正体は上巻では明かされないけど…目が見えないというのに、妖精のフィツの存在にも気がついていたという不思議なおばあさん。
ランゼスの町でペチカがいなくなって…、おばあさんが雨のなか必死に探し回るシーンが印象的でした。自分の子どものように感じていたのかな?オムレツを作ってくれる場面でも思わず、顔がほころんでしまいました。お母さんの味のするオムレツ… ほろっときますね。

貧困のせいで自分が生き続けることだけを優先的にしてしまう、哀しいペチカ。彼女が真実、変わったのは上巻の終わり。ペチカのもとからいなくなり、その記憶すら忘れていたフィツのことを思い出すシーンでしょう。


下巻でのペチカのすがたを見るのが楽しみです。


*本のプロ レスより*
ときわ姫 > 私もあの猫のシーンはなんとも印象的でした。他者を思いやるためには、余裕が要るのだと思いました。あれがあったので、後でお団子のシーンに感動したのですが、もしかして下巻だったかもしれないのでこれ以上は書きません。 (2004/01/06 11:20)
北原杏子 > お団子のシーン、上巻にありました。ペチカがジベタリスに余ったお団子を残していってあげるところでしょう?
だんだんペチカのなかで何かが変わっていっている、という証のようで私も感動しました。
いま下巻の真っ最中、世界の果てへ行こうとするペチカのすがたを追っています。 (2004/01/06 23:21)
たばぞう > 最初のペチカいじめは凄惨でしたね。本プロでこの本のことを知ったのですが、先に読まれた方の「面白かった」との感想がなければ、頭にきてそこで読み終えていたかもしれません。子猫の事を思いやる余裕のない時のペチカですが、状況は違っても、何らかで追い詰められた時、自分も似たような行動をとる瞬間があるのではないか・・・と、北原さんの感想を読んでちょっと怖くなりました(笑)。 (2004/01/06 23:59)
北原杏子 > たばぞうさん、私も人から薦められてこの本を知ったのです。確かに最初は暗いですよね。ペチカという名前から連想するものとはかけ離れていました。ペチカ=暖炉?ということで、何となくあったかい、というイメージがありました。
#童謡にあったでしょう?あれのイメージです。
人はあまりに切迫した状況になると他人を思いやる余裕も何もなくなってしまう・・・ってものすごく怖いです。 (2004/01/07 01:44)
トントン > 本プロでこの作品を知って読んだのですが、すごくはまりました。時間設定も独特だし地図も見ていて楽しかったです。下巻では何度も泣いたような覚えが・・・感想待ってますね。 (2004/01/07 10:26)
北原杏子 > トントンさん、下巻読み終わりました。最後は感動…でしたね。途中、涙がじんわりと… いいお話でした。 (2004/01/09 00:23)