「人形の旅立ち」長谷川摂子★★★★

人形の旅立ち (福音館創作童話シリーズ)

人形の旅立ち (福音館創作童話シリーズ)


絵本「めっきらもっきら どおんどん」等で有名な、作者の創作童話。第19回坪田譲治文学賞に選ばれたそうです。
山陰の小さな町を舞台に、幼い少女の日常生活のなかに垣間見える幻想的な物語を描いています。

全部で五編の作品が収められています。表題作の「人形の旅立ち」「椿の庭」「妹」「ハンモック」「観音の宴(うたげ)」。 それぞれ独立した話で、単独でも読めます。
たとえば「人形の旅立ち」…
毎年三月末、神社の大樹、古い楠の巨木“荒神さん”の根方に古くなった雛人形が捨てられる。まりつき遊びに興じていた「わたし」のまりが間違ってその近くに転げていってしまうとそれをとりにいくたびに「わたし」は人形たちの見えない非難の目を感じ、すばやく戻っていくのが常だった。
真夜中、そんな「わたし」はばあちゃんといっしょに、人形たちが木の洞のなかに次々と飛び込んでいくのを目撃する。
空洞の本来なら何もないところにあったのは、輝く海…人形たちはその海へ身を躍らせ、何処かへと旅立っていくのだった。


こんな話があと4つあるんです。
筋だけみれば、とりたてて新しいところはないように思えるのですが、少女「わたし」の住んでいる町の描写が本物そっくりの厚みで書かれていて、それが一番の魅力です。
のびのびと生きている「わたし」がいるだけに、そこに描かれる幻想的物語もまた生きてくる、という感じでしょうか。


これは作者の故郷の町を舞台にしていることも一因になっているような気がします。自伝的色合いも少しはあるのでしょうか。
古い町並み、神社の境内、ススキの穂のならぶ池の端、虎おじじの耕す畑(“こーえん”と呼ばれる)…
みな昔、どこかの町に実在していたといってもいい風景ばかり。私は山陰とは全く縁もゆかりもないですが、そこに描かれたものには郷愁を感じてしまいます。私たち日本人の心にあるものなのかもしれません。


金井田英津子さんの挿絵も魅力を添えています。文章と挿絵が互いに支えあっているような感じで、とてもいいです。



*本のプロ レスより*


すもも > 「めっきらもっきらどおんどん」の作者さんが、この方だったなんて、本棚に走って確認してきました。今すごく感動しています。子どもたちも私も大好きな絵本です。北原さんの日記を読まなかったら、ずうっと知らないままでした。ありがとう。この本で、坪田譲二文学賞を受賞されたのですね。昨日テレビで、ご本人を見ました。さっそく読んでみたいと思います。 (2004/02/15 11:07)
北原杏子 > すももさん、私は前にこの本の情報だけ知っていたのですが、機会がなくて未読のままでした。このたび坪田譲治賞受賞のことを福音館書店のサイトで知って、読んでみようと思い立ちました。すごくよかったです。すももさんもぜひ読んでみてください、感想お待ちしてます。 (2004/02/15 23:53)