「裔を継ぐ者」たつみや章★★★★

裔を継ぐ者

裔を継ぐ者

久方ぶりのたつみやさんでしたが、違和感を覚えることもなく満足して読み終えられました。


最初は、我がままで自分勝手な行動をとるサザレヒコに、やきもきしたりもしましたが、彼がオオモノヌシと出会って鍛えられていくところからは安心して読めました。この部分ではとくに、サザレヒコが初めて狩りをするシーンが印象的でした。
初めて自分で獲物に矢を射かけ、でもとどめをさせないでいるサザレヒコに、オオモノヌシが言って聞かせた言葉。
「食べることはして殺すのはいやだというのは、卑怯ないいぶんだ」現代に住む私たちにとっては、重い言葉ですよね。


その他、オオモノヌシはサザレヒコに様々なことを教えます。神とカムイとに礼をつくして、何をするにも感謝の心を忘れない。私たちが普段の生活では忘れていることを、この物語では語ってきかせてくれています。


月神シリーズよりも、神さま三部作(といっても私は最後の一冊は未読なのですが)のほうに近いような、メッセージ性のある作品ですね。
ファンタジーとしては後日談の域を出ないようでいま一歩なのかもしれませんが、作者であるたつみやさんの言いたいことがそのものずばりと描かれていて、そのこと自体はとてもよいです。


サザレヒコのキャラクターも、ごくありふれた人物像なのかもしれませんが、口から生まれてきたような、口達者なサザレヒコには親しみがもてました。
失敗しても結局はくじけずに最後までやりとげたサザレヒコ。怒ったり泣いたり、とより人間的な親近感を感じました。


華麗な東逸子さんのイラストも素敵です。とくにヌシさま(ポイシュマ)とシクイルケ。サザレヒコも最初はみっともなく泣いていたのに、後半では立派に成長しちゃって…感慨深かったです。


全体にゆったりと落ち着いて読めたのがよかったかな(笑)。



*本のプロ レスより*

すもも > 本の感想って、なかなか思うように書けなくて、いつも頭を悩ませているのですが、北原さんの日記を読むと、自分の言葉足らずだった部分まで的確に表現してくださっているので、うれしくなってしまいます(^^)
「七人の魔法使い」の後だと、なおさら落ち着いて読めますよね(笑) (2004/02/22 14:04)
ときわ姫 > おお、評価が高いですね。オオモノヌシガサザレヒコに言うことは、そのまま今の私たちに当てはまる事ばかりですね。サザレヒコは皆にいろいろ語りましたが、今またみんな忘れて暮らしています。今さらどうしたら良いんでしょうか?ちょっと辛いです。 (2004/02/22 14:08)
北原杏子 > 今日、「王の帰還」を観てきたばかりで、頭がそれから戻ってこれない状態の私です(^^;

すももさん、私こそ感想を書くときにはいつも頭をかかえ、四苦八苦しながら書いています。そう言ってもらえると何だか嬉しいです。すももさんの感想もいつもすっきりと要点をおさえていらっしゃるので、わかりやすいです。私の場合、いつもだらだらと書いてしまいがちなので、見習わなければ。
ときわ姫さん、本当に現代の私たちの生活って…と思いながら、この本を読みました。たつみやさんって、こういうメッセージを作品にこめることが多い作家さんですよね。そういう作品を読むと、ただの娯楽のみに徹してしまうお話とはちがって(そういうのも楽しくて好きですけど)、考えさせられることが多々です。感謝の心を忘れない人間になりたいと思えども、実際は…なのですもんね。 (2004/02/23 00:13)