「月魚」三浦しをん★★★


月魚

月魚


久々のしをんさんの小説です。
古書店にまつわる話と聞いて、一体どんな話だろうといろいろ想像していましたが、予想を上回る内容でした。
「無窮堂」(なんていい名前!)という古書店を営む店主、本田真志喜と、その幼なじみで古書の卸業を営んでいる瀬名垣太一の恋物語(爆)と書きたいところですが、それも単純なものじゃなくて、過去のトラウマなんかも関係していたり、古書に対する愛情だの父親との確執だの何だの、いろいろ出てくる。
真志喜と瀬名垣の関係というのも、一見普通の友人同士に見えますが、文章のそこここに垣間見えるものから想像すると、そこには限りなくクロに近いものを感じますね。
お互いに対する信頼と愛情はあるのに、二人の間にある過去におけるトラウマのせいで、そのぎりぎりの位置から一歩を踏み出せずにいる。

そういう図式が浮んできます。
途中でもラストでも、思わせぶりなことを書いていて、でもちっともそういうふうにならないんですよね。
それは「やおい」とは全く違います。文学的香り、というかしをんさんの匂いというか、そういうもので全体がふんわりとしている、という感じがしました。

古書業界に関する話も面白く読めました。本好きなら楽しめますよね、こういう話って。


それと真志喜の父親の存在。幻の本『獄にありて思ふの記』をあわや捨ててしまうところだったのを瀬名垣に拾われて、古書店主としての面目を失い、失踪してしまうのですが、そこまでする、と思いました。
それもその先を読んだら、祖父の本田翁が息子よりも孫の真志喜に古書の才を見出して目をかけていたことなどなどが判明して、むべなるかなとは思いましたが。
古書店を営むものとしての矜持なんでしょうか。


古本屋などというと昨今流行のブックオフなどを思い出す私ですが、本書の扱っているのは月とスッポン… 格調高き古書店なのですよねえ。
まさに、古書好きのしをんさんの好きそうな世界ですね。


「水底の魚」というのが本編のタイトルなのですが、池の奥に潜んでいる主は何かを象徴しているようで。古書の世界にひそむ主? 無窮堂の主、とでもいうのでしょうか。
最後に二人がこの魚の正体を知るところが印象的でした。


それと「水に沈んだ私の村」。短編だけど、最初の一文に何かと思いました(^^; からくりがわかったら、なるほどそういう趣向ね、と納得。ここに出てくる高校の教師というのもまた相当変です。危ない危ない… 真志喜と瀬名垣の高校時代を描いてます。
瀬名垣はともかく、真志喜もこういうことをやってたんですね。やり方が念入りだし。十七歳の夏の日のメモリアル。ラストは爽やかでした。私も二人の“これから”をいろいろ想像してしまいそうです(^^ゞ



*本のプロ レスより*


ときわ姫 > 私はこれを実はBOOK・OFFで買ったんです。読んだ後少し複雑な気持ちになりました。昔ながらの古本屋さんは、私には少し敷居が高いです。これを読んで古本屋さんのことが色々わかって、よかったと思いました。「せどり」という言葉の意味を初めて知りました。
全体に流れる緊張感は、とても心地良かったです。 (2004/03/05 10:11)
北原杏子 > 私もこういう古書店と言われる古本屋さんは敷居が高くて、あまり入ったことがないです。「せどり」という言葉は以前にどこかで目にしたことがありましたが、正確な意味あいというのはこの本で初めて知ったようなもんです。とても勉強になりました。ブックオフでこれを買われたなんて、ちょっと感慨深いでしょうね。古書店を舞台にした作品がブックオフで…なんてね。
ところで感想に書き忘れたんですが、白い軽トラ活躍してましたね。三部作だったんですよね。次は第一部(笑)の「格闘するものは○」を読みたいものです。 (2004/03/06 00:00)
あさこ > こんばんは。私もこの本で古本屋業界のことを色々と知ることができ、勉強になりました(笑)たしかに、昔ながらの古本屋さんて敷居が高いですよねー。憧れます。
白い軽トラ!そうそう、三部作なのですよね。杏子さんの『格闘〜』の感想、楽しみにしてます♪ (2004/03/07 23:50)
北原杏子 > あさこさん、私ちょっと古本屋っていいなあ、やってみたいなあなんて思ったことがありましたが、これ読んでダメだあと思いました。大変そう(^^;
『格闘〜』はおもしろそうですね。これも古本屋さんで買ったのでそのうち暇を見つけて読みます(^^) (2004/03/09 00:29)