「ドゥームズデイ・ブック」コニー・ウィリス

この本は実は文庫化されたときに買っていて、でもずっと積読していた本の一つなのだったのですが。「犬は勘定に入れません」を読んでとても素晴らしかったので、この本もすごく読みたくなってしまい… 積読本からひっぱりだして読みました。

上下巻で各500ページ以上もある分厚い本です。その内容をちらっと読んでみると、人がばたばた死んでいくかなり悲惨な話のようでしたし。読むには覚悟がいる本…と思いましたが結果をいうと全くそんなことはありませんでした。
反対に、これほど読むのをやめるのがつらい本はついぞなかったような気がします。時間さえ許せば、ずーっと没頭していたかった。事実、読んでいるあいだ家のなかのことはあとまわし状態^^;

何より素晴らしかったのは、オックスフォード大学の女子学生キヴリンがネットを通過していった先の中世の世界の描写でしょう。そこに生きる人びとの暮らしがまるで目で見てきたように描写されています。
ちょっとした手違いから起こってしまったキヴリンのトラブル。熱病にうかされる彼女を助け、村まで連れてきてくれ、傷の手当てと看病をしてくれた村の人々。
命を落とすところを手をとって救ってくれたローシュ神父、学んでいった中期英語がうまく伝わらずに四苦八苦していた彼女に正しい言葉を話すきっかけともなってくれた、気かんきだけれども可愛い盛りの5歳のアグネス、その7歳年上の姉ロズムンド、2人の姉妹の母親であるレイディ・エリウィス、その姑レイディ・イメイン…
それぞれが等身大の人間として描写されています。嫌なところもいいところも…
それだけにのちに起こった悲劇が、信じられなくて。つらかったです。

魅力的な人物というのは、中世のパート以外の、現代である21世紀のパート(ネットで送る側の)にもいます。
キヴリンの指導教授でもあったオックスフォード大学ベイリアルカレッジのダンワージー教授、その友人ドクター・メアリ・アーレンス、その姪の息子であるコリン少年、ベイリアル・カレッジの学生であらゆる女性を篭絡させる技を持っているウィリアム・ギャドスンとその母親ギャドスン婦人。ベイリアルカレッジを訪れたアメリカ人の鳴鐘者のミズ・テイラーにミズ・ピアンティーニ… 数えればきりがないほどです。

これらの人々が奮闘し、駆けずり回ってクライマックスに向けて盛り上がっていきます。その過程を読んでいるだけで手に汗握ります。現代パートは悲惨なのは同じだけれど、ちょっとどこかスラプスティック調。ダンワージー教授の秘書フィンチや、前述のコリン少年やギャドスン夫人、アメリカ人の鳴鐘者たちの存在によって、だと思います。
とくにコリンの活躍は素晴らしく。私的にはひとおししてあげたくなるような少年でした。

一方、14世紀に飛んだキヴリンの運命は次第に過酷なものとなっていき… ついに判明したあの事実。いったいどうして!?とヒロインならずとも叫んでしまいそうですが。
そこからの緊迫感はたまりませんでした。
降下のためのフィックス(ネット用語で、降下した時間と場所を把握するための数字)をだしたネット技術者バードリが、熱にうかされながら喋っていた言葉のなかにヒントがあったなんて。教授ならずとも、ええ〜!!って感じでした。

そしてラスト… キヴリンのあのひとことが何もかも締めくくってくれました。最初から最後までもう、ひたすら読むしかない、やめられない止められない状態のすごい作品でした。

解説に恩田陸さんが文章を寄せていたのもよかったです。帯キャプションにもなっていた恩田さんの「極上の読書時間を保証してくれる」ですが、私にとっては極上すぎてしまって…おかげで寝不足の毎日でした。おまけに夏風邪ひいてしまって。「ドゥームズデイ…」みたい〜^^; なんて言いながら、現代の薬のありがたさに思いが至ったり。
たいそう有意義で、貴重な読書体験でした。


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トントン > 昨日から読み始めました!登場人物が多いのと慣れないSFということでちょっともたもたしてますが、最初からかなり面白いです。読了後ゆっくり北原さんの日記を読ませてもらいますね♪ (2004/07/10 08:23)
ときわ姫 > 北原杏子さんの評価も高いですね。私もこれはほんとに久しぶりに没頭できる本だと思いました。たくさんの人がでてきて、どの人の人生にも共感しまい、ラストに向かって辛かったです。みんな確かに生きてる人って思いました。 (2004/07/10 14:04)
すもも > 図書館から借りた本をいっき読みし、最後に残ったこの本に、やっとたどり着きました。北原さんの日記は、読後の楽しみにとっておきまする。 (2004/07/10 15:42)
ココ > うー、読みたくなっちゃいますよ〜。でも図書館で上下巻の本を借りたり予約してしまったりしているので、ちょっと先になりそうです。ダンワージー教授やフィンチも出てくるんですね。 (2004/07/10 21:18)
北原杏子 > トントンさんも読み始められたんですね!これからきっと楽しまれることでしょうね。読めば読むほど面白くなってきますよ。感想楽しみにしてます。
ときわ姫さん、評価は5ですが自分ではその倍の10くらいあげたい気持ちです。もう頭がこの話から離れられなくて…毎日たいへんでした!
すももさんもこれから…なんですね。お楽しみはこれからだ〜!ってことで。すももさんの感想も楽しみです。
ココさん、私もちょっと間を置いての読書でしたが、全然OKでした。でもこれを読んだらまた「犬は」を読みたくなって図書館から借りてきてしまいました。「ドゥームズデイ」に出てきたある人物の名前を確認しては、ニヤリしてました^^; (2004/07/10 22:42)
たばぞう > 最近、接待(?)他で仕事の後にお酒が入ることが多いのですが、先日目が覚めると「犬は勘定に入りません」がおうちにありました。酔った勢いで購入してしまったようです・・・。私ってなんて欲望に忠実なのかしら。まずはこちらから読むことになりそうです。 (2004/07/10 23:16)
北原杏子 > たばぞうさん、買ってしまったんですか!「犬は〜」いいなあ、羨ましいです。私なんて今日もまた借りてきてしまいました。三度目です。図書館の人もきっと不思議に思ってるかも!? 購入は文庫化を待ちます。それまでは図書館本を自分の本と思って(^^ゞ 今日も「航路」を借りてきてしまったんですが、実はこれ…インターネットの古本屋さんで上下で1000円という格安本を見つけてしまって。送料はかかるんですけど、つい買ってしまいました。すでに図書館に予約いれてたのにね〜 (2004/07/11 00:08)
たばぞう > 「航路」購入されたんですかっ!?。上下1000円はお買い得です〜。お買い物上手ですね〜。「航路」の感想も楽しみにしてますね♪。 (2004/07/11 00:14)
北原杏子 > たばぞうさん、レスがすばやい!!とちょっとびっくりでした。「航路」はいまのところ、図書館本で読んでます。まだ出だし部分なのでわかりませんが、期待は持てそうです。っていうか面白いに決まってる!と思ってます〜 (2004/07/11 00:21)
ときわ姫 > ネットの古本屋さん!そうかその手があったか!と、私も検索してみました。「航路」上が1000円でありました。でも下がないし、また時々あたってみようと思います。ちなみに「犬は〜」はありませんでした。でもこれもこれから気をつけてみます。 (2004/07/11 14:32)
北原杏子 > ときわ姫さん、いろいろ探せば結構、あります。今は手に入らない絶版本とかよくこの手で買いました。
「航路」上下で1500円というのもありましたよ。私がよく利用するサイトです。さすがに「犬は」はありませんが。
http://item.easyseek.net/item/20391662/?i_no=20391662&c_no=0 (2004/07/11 22:44)
トントン > さっき読み終わりました!本当に読むのを中断するのが惜しかったです。「犬は〜」と「航路」も期待大ですね! (2004/07/13 15:04)
北原杏子 > トントンさん、いま感想を読ませていただきました。本当に大満足の一冊でしたよね。私もいろんな人に読んで!!と薦めたい気持ちでいっぱいです。「航路」も上巻があと少し。いったいこれはどうなるんだろう?とまた昼夜つづけて読書に没頭する日々が続いてます。 (2004/07/13 22:44)
青子 > 北原杏子さん、コニー・ウィリス、大ブームになっていますね。この賑わいを読むと私も手を出したくなります。でも、どれも長編なんですね。まずは「犬は〜」に挑戦してみます。 (2004/07/14 20:08)
ケイ > ほんとにすごいです。おもしろそう、、読んでいる間、他のことをしたくない本って、ありますよね。私もメモを控えて、、出会いをまとうと思います。 (2004/07/14 20:37)
北原杏子 > またまたレスありがとうございます♪
青子さん、どうぞどうぞ手を出してくださいませっ。絶対損はさせませんよ〜保証します☆ 「犬」もいいけど、「ドゥームズデイ…」もよいですよ。余裕があったら、こちらか読まれたほうがより楽しめるかもしれませんね。
ケイさん、ほんとですね、ただもう、すごい!!としか言いようがない作品です。ケイさんもお仲間になりませんか〜面白さは保証付き、です♪ いまは「航路」に夢中で他のことが目に入らない、困った私です。

そういえば… 「航路」古本が今日、届きました。上下とも帯つきのほとんど新品と変わらないような美品でした。まぁよく見れば瑕もあるかもしれないけど、私にとっては十分な品でした。もう素直に嬉しいです。これでまた読み返す楽しみができたんですからっ! (2004/07/15 23:49)
ケイ > こんにちは〜じわじわとはまっていく作家ですね。航路も図書館で借りたら、かなり傷んでました。二年足らずで、、航路の読後も楽しみです。 (2004/07/28 10:01)
北原杏子 > ケイさん、「航路」感想を楽しみにしています。これも何度も再読に耐えうる作品です。2年足らずで…というのもうなづけます。もっとウィリスの本を読みたい気持ちでいっぱいです。 (2004/07/28 23:01)