読了本

デイルマーク王国史の3巻目ですが、これはちょっと最初の1・2巻と趣が違いました。
そのため最初はちょっと戸惑いましたが、途中からやはりぐいぐいとおもしろくなってきました。
まさに、ジョーンズさんらしい、物語のおもしろさです。

ここからちょっとストーリーについて触れてしまう部分があると思うので、未読の方はご注意をお願いします。


まずのっけから、これは前2作とは全く時代が違う、ということに気がつきました。
雰囲気も違うし、何より巻頭に付いている地図を見てみればわかります。

この時代では、〈川〉が大きな力をもって、人びとの生活を支配していたようなのです。
最初は単なる川と思っていましたが、読んでいくうちにだんだんそれがわかるようになっています。
ずっとあとになって、それがどうしてなのかわかるようになってますが、最初はただもう錯綜としていて、何がどういうことなのか、全くわかりませんでした。


主人公の少女のタナクィは5人兄弟。上から姉のロビン(コマドリ)、兄のガル(カモメ)、兄のハーン(アオサギ)、そして4番目にタナクィ(イグサ)、下に弟マラード(マガモ)がいるけれどいつもはただダックと呼んでいる。これは幼名ということでしょう…
そして、タナクィがわたし、語り手となって物語は進んでいくのです。

父は二枚貝(クラム)のクロスティと呼ばれていました。5人兄弟と父は〈川〉のそばにある、シェリングという村で暮らしていました。この村は小さくて寂れた、暗い感じの村です。
兄弟にはおばのザラとおじのケストレルがいます。
この2人…とくにおばのザラはちょっと暗い印象で、兄弟に対して何かこだわりを持っているようでした。あとからわかってきますが、これには訳があったのですね。


そうしてある時、この国に異教徒(ヒーザン)たちが攻め入ってきて、王の軍がこの村にも兵士を徴集しにやってきます。それで、タナクィのお父さんと長兄のガル、おじのケストレルが兵隊にとられて出かけていくのですが…

何ヶ月経っても、父はもどってこなかった。他の村人たちも同じ。そのあいだ〈川)から霧が発生して村の牛たちに病気が発生してしまったりして…。村人たちはそれがタナクィたちのせいだと言ってきます。〈川〉を怒らせたから、というのです。これはどうしてなのか?と思っていたら、どうやらこの家族の外見が、他の村人たちと全く違っている、ということに理由がありそうでした。

村人たちはがっしりとした体に、黒っぽい髪なのに対して、タナクィたちは金髪に、ほっそりとした背の高い体、と全く違っています。
一方、異教徒であるヒーザンという種族(海の向こうからわたってきた民)の外見はこの兄弟たちに酷似しているというのです。これは何故?といった感じでそのあと話が進みます。
兄のガルがおじのケストレルに連れられて戦争からもどってきた頃、それは頂点に達し・・・〈川〉に洪水が起こるのでした。その春に起こるという、洪水のさなか村人たちは兄弟をヒーザンとののしって、迫害してくる。それを逃れ、兄弟たちは村を脱出、〈川〉を下って舟の旅に出発していくのです。


そのあといろんなことが起こります。〈川〉を下っていく舟旅で出会った、ヒーザンたちらしき死体や、沈んだ宮殿の残骸やら…。
戦争からもどってきたばかりの兄のガルはそれ以来、ずっと魂がぬけたようなふぬけた状態になってしまって、口に出すのは海へいくんだ、と言うことばかり。で、ひたすら舟を速く進ませようとするのです。

そんな兄弟たちに救いの手をさしのべてくれた謎の人物。タナミル。ここの話にはどうも記憶不明瞭な、奇妙な感じがつきまといます。何か夢のなかの出来事のような…。
語り手のタナクィ自身も錯綜としていて、よく覚えていなかったり… 一方で、姉のロビンが何かタナミルと口論するようすを目撃してしまったり。タナミルが兄弟たちに、1つずつ質問をするように、と言ったり、何だかわけのわからないことばかりでした。

一体、タナミルとは何者なのか? それはかなりあとになってからやっとわかったって感じ。
もう、そんなこととは思いもよりませんでしたよ。


その後、兄弟はヒーザン(敵方)と出会って、王の陣中に連れられていき、宿命的な出会いをします。
敵とはいえ、味方よりもずっと親しみをもてる感じ。容貌も似通っているし、何より彼らが持っている信仰〈不死なるもの〉への畏敬の念が、兄弟たちの持っている〈不死なるもの〉、〈唯一の者〉〈若き者〉〈女神)という三体の像への、信仰にひじょうに似ていたのです。


そしてこのへんで、やっと本家大元(?)、隠された悪の権化みたいな存在がでてきます。
それが魔術師のカンクリーディンでした。
兄弟は何故か(?)ヒーザンの王カルス・アドンにたのまれて、この魔術師のところへいくことに…。
その途中でまたちょっとわけのわかんないことが起きて・・・いったいこれは?と思っていた私でした。あの網って何?と思っていたのですが、これも織物の一種だったんですね。
魔術師のまとっていたローブに織り込まれていた言葉というのもそうでした。
タナクィがその言葉を次々と読んでいく箇所があったけれど、そんな意味があったなんて思いもしなかったです。

大体、何故タナクィが物語る=ローブ(織物)を織る、という行為をしていたのか、それまでは全く見えてこなかったのでしたが。
そう、語り手であるタナクィはこの話を紙に書いているわけじゃなくて、機で織物にと織っているのです。言葉を、複雑な記号であらわしたものを模様として織り込んで。
これはこれだけですごい技術でしょうが。

タナクィはだれに教わったわけでもなくて(いや、最初は母に教わった姉のロビンから教えてもらったのでしたが)、独学でここまで出来るようになったんでした。


ここでタイトルの意味がわかってきます。呪文の織り手…
タナクィの母という人物も途中からたびたび夢や幻というかたちで現われてきますが、
その血にまつわるものが何なのか。
わかったときは、もう…


ふーんそうなのかぁって感じでした。これ以上は言えませんが。またもジョーンズさんの魔法にしてやられてしまった、とだけ言っておきましょう。
ただもう、読者は物語に翻弄されるのみ、です。
これぞジョーンズさんの真骨頂。最大の魅力でしょう。


この話があって、前の2作も生きてくる感じです。
巻末にまた用語集が載っているので、それを熟読すればこのあとどんなことが起こったのか、おぼろげながらも想像することができて楽しいです。


次はいよいよ完結編。またえらく分厚い本なのですが、読むのが楽しみになってきました。