心にひびく感動作!

川の少年 (ハリネズミの本箱)

川の少年 (ハリネズミの本箱)


やっとこの本を借りてこれました。で、ほとんど今日一日で読了しました。
前に読んだ「星の歌を聞きながら」もそうでしたが、これもまっすぐに心にとどく感動作でした。


突然、心臓発作で倒れたおじいちゃんと、少女ジェスの物語です。
おじいちゃんの最後の絵となった「川の少年」。
ジェスが見た川で泳ぐ不思議な男の子…
おじいちゃんの故郷の地、豊かな自然を背景に、幻想的に物語は進みます。


けれど現実はやはり厳しくて。ジェスに襲いかかってくる不幸。病気で倒れたおじいちゃん、何とか最後の絵を完成させたいと、コテージに持ってきたのですが、だんだんおじちゃんの具合が悪くなってきて・・・
ついに最後の力を使い果たしたように、絵筆さえもてないくらい衰弱してしまうのです。


もうこれが最後、と大人しく病院にいこうとするおじいちゃん。ジェスはとても悲しくて、何とかしておじいちゃんに絵を仕上げさせてあげたかった。
川で泣いているジェスに、静かに語りかける声・・・
――どうして泣いているんだ?
それは川で出会ったあの少年でした。


ジェスは少年の薦めにしたがって、おじいちゃんを手伝って、絵を完成させるんです。絵筆をもつおじいちゃんの手を両手でもってささえて。
この場面、挿し絵にも描かれているのですが、心にじーんときました。
おじいちゃんがこの時、選んだ絵の具は黒一色。それをすでに描かれたキャンバスの上の絵にすーっとのせていくだけ。
ジェスはこれがどういう絵なのかも全くわからないまま。
あとで、これが何をしめしていたのか、わかって・・・・
そこで読者はあることに気づかされるのです。
(もちろんそれ以前にもちらりと伏線はありましたが)


そしてあの少年の願い・・・ジェスに手伝ってほしいことがあるという、それを聞きにジェスは夜明け前に、川の水源に向かって出発するのでした。
川の水源・・・丘のように小高いところになっている・・・そこから見る景色。それは胸うたれるものだったでしょう。
水源からちょろちょろ細い筋になって流れている川が、だんだん大きくなって、時には速く、時にはゆったりと流れていく。
その行き着く先・・・海へ向かって。


川を人生のようだとたとえていう少年の言葉が、印象深かったです。どんなに苦しくてもつらくても、ただひたすら海へと向けて流れていくだけ、という…。

男の子の挑戦とは、その川を海まで泳ぎきる、ということでした。ジェスにもいっしょに泳いでほしい、と男の子は言うのでしたが。
はじめ、おじいちゃんのことがあるから、と断ったジェスでした。一瞬よぎった失望の表情・・・あれが何をあらわしていたのか、ジェスは本能的に知っていたのではないでしょうか。


その直後、コテージに帰ったジェスを待っていたこと。
それに触発されるように、ジェスはすぐさま川へ飛び込んでいくのです。


少年のあとを追って・・・ 海へと泳ぎきるために。


何のためにこんなことをするのか。疲れのせいか、途中でしだいに混乱してきてしまうジェス。
前へ進むことができなくなってしまいそうになったそのとき、ジェスがずっと先の川面で見つけた泳いでいるだれかの人影。


少年を追ってまた泳ぎだしたジェス。一時は見失いながらも、なんとか追いついていた・・・海へはあと少し。
少年はジェスに、あと少しいっしょに泳いでほしい、と静かに言うのでした。
そうしてジェスは海へとたどりつくのでしたが・・・


読者のだれもが予想がついたように、そのときにはすでにおじいちゃんの命は消えていって・・・
でもそれは不思議と悲しくはないのです。
もちろん悲しいのですが、それでも絶望に打ちひしがれて、という感じではない。どこかに希望が残っているような、そんな感じです。


ジェスがあの少年とともに、川を海へと泳いでいったこと。
それは明日へ向かっての、希望へ向かってのストロークだったでしょう。


人の人生について、生死について、ちょっと足をとめて考えさせてくれる本でした。
ジェスの周囲の人たち…。両親、おじいちゃんの幼なじみの老人、河口でジェスを見つけてくれた婦人警官、みんなが温かい目でジェスを見守ってくれているようだったのも、よかったことのひとつでした。